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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表悪阻

2010年6月29日

悪阻

普通部1年 今泉 聡

初めに

本症例を悪阻という演題をつけ発表しますが、この患者はメニエール病と診断され、よく発作を起こし、目眩や吐き気がよくあるようで、悪阻であるのか、メニエールの発作症状なのか、区別しにくい点がありました。

患者32歳女性主婦

初診 平成8年5月二日

主訴

妊娠3ヶ月目で悪阻がひどくむかむ

かした感じがあり、目眩がする。

望診

小柄で類痩し、栄養状態はやや不良。皮膚の色は全体的に白く、顔色は青白いそうです。

聞診

声は澄んでいるが、話し方にめりはりがなく、トーンダウンする感じでした。

5音は商とし、5声は哭とみました。

問診

現病歴

今3人目の子供を妊娠中で、3ヶ月目の後半であるが、まだお腹はそんなには目だって

きていない。

2ヶ月目ごろより、悪阻がひどく食事をとっても直むかむかして、時々戻す。

今月に入り流産の危険性があるので、三日ほど入院し、医者からは血液の流れをよくする薬をもらっている。

上の二人の子供のときは、ここまで悪阻はひどくはなかった。

既往歴

3年前に目眩がひどくなり、医者でメニエール病と診断され、常に耳がモヤモヤした感じで今年の2月ごろより強い発作が出て、3度入院し、点滴を受けた。それと妊娠が重なり、流産するのではないかと不安そうでした。慢性蕁麻疹が、背中や腕、肘下膝下に出来やすい。その他手足が冷え、頭がむくみ、頭痛も時々ある。食事は取るようにしているが、食べた直後からむかむかするので、最近食欲がなくなっている。

睡眠便通は正常です。

切診

切経

全体的に少し汗ばんでいて、皮膚はこそうし、背中には湿疹がびっしりある。右肝兪付近に筋纐纈を触れる。ナソ部は特に右側の鎖骨上かよりけつぼんけつを中心に

乳様突起にかけて硬い筋張りを触れ、ゴムねんどよう所見としました。

左右のこめかみ部にぶよぶよした感じで、浮腫みがありました。

腹診

全体的にかんげし、虚の腹と見え、下腹部もほとんど出っ張りがなく、言われなければ妊婦さんとは分からないくらいでした。

経絡腹診では、臍を中心に中韓穴より陰交穴にいたる脾の診所力なく虚。右実月から腹哀にかけて肺の診所皮膚につやなく虚。

左帯脈穴より居リョウ穴にかけて肝の診所つやなく虚と見ました。

心かぶは押すと気持ちが悪いとのことでした。

脉診

脉状診

沈やや数にして虚。

比較脉診

右手かんじょう沈めて脾虚。続いて左手かんじょう沈めて肝虚。左手沈めてしゃくちゅう腎きょ。左手すんこう沈めて心虚。浮かせて小腸あり。右手すんこう浮かせて大腸あり。他は並位と見ました。

病症の経絡的弁別

痩せていて食事を取るとむかむかし、食欲不振胃部の不快感とうは脾土経の変動。

皮膚こそう/慢性蕁麻疹/商音/5声の哭/皮膚の白さ/顔色とうは、肺金経の変動。 手足が冷え/頭が浮腫み/耳のもやもやした感じは腎水経の変動。

目眩の発作/頭痛等は肝木経の変動としました。

以上、脉症腹症その他総合的に判断し、脾虚肝虚の相剋調整という証を立てました。

予後の判定

この患者は虚体で陰性体質と思われ、体力を付けさせることが大切だと思いました。

しかし、持病のメニエール病の発作と悪阻が重なり、、私の技術から行って、

症状の改善は少し困難とは思いましたが、患者には後1ヶ月もすれば、安定期に入り吐き気も治まってくるから、鍼治療を続ければ吐き気もしだいに軽くなり、目眩の発作の間隔も徐々に開いていくからと説得し、全身治療の経絡治療であれば、生命力の強化ということもあり、根気強く治療に取り組もうと思いました。

適応側の判定

耳前動脈を左右比較すると、右がやや強く触れましたので、右適応としました。

治療および経過

虚からだでもあり、数脉皮膚の薄さとうから、細鍼を用い、鍼数を出来るだけ少なめにすることを心がけました。

本治法

まず、右太白穴に銀8分1号鍼にて経に従い2ミリ程度刺入し、やや左右圧をかけ充分補い、押し手の下面に温かみを感じましたので、100パーセント左右圧をかけ素早く抜鍼すると同時に鍼穴を閉じるという補法を行ないました。

見脉すると脾の脈に力が着き、中位に浮いてきましたので、ついで右大陵、左曲泉/陰谷にたいし、同様の補法を行い、見脉すると陰経が全体に平らになり、脈状も沈から中位にまとまってきましたので、陽経の処理に移りました。

改めて脉診すると先ほどまでの胆と小腸にあった邪が明瞭にこと思われる虚生の邪を触れることが出来ました。左支正、左光明にステン1寸1号鍼にて経に逆らい1ミリ程度刺入し、充分補った後、幅狭に刺動法を加え、左右圧をかけずにすっと抜く鍼し鍼穴を閉じないという補中の瀉法を行ないました。

見脉すると虚生の邪は取れたように見えましたが、胃の脉が虚に見え、野腹症も心かぶ表面に力がないように見えましたので、右足三里に補法を行ないました。

再度見脉しますと脉全体は虚脉ではありますが、中位にまとまっていましたので、表治法に移りました。

表治法

腹部では、中韓/巨闕/天枢/付陽/実月など左右比較しながらステン1寸1号鍼にて接触鍼を行い、補的に行ないました。

下腹部ムノ部には妊娠初期でもありますので、行なわずにナソ所見に対し、ステン1寸1号鍼で右のゴムねんどよう所見に2から3ミリ静に刺入し抵抗がありましたので、ゆっくり押し付けたり捻ったりしながら抵抗緩むを度として左右圧をか抜き去る深瀉浅補の刺鍼をしました。動揺の方法で左に3箇所。こめかみ部の浮腫にたいして補的散鍼。うつ伏せにして背部腰部に接触鍼。右肝兪付近の硬けつにたいししゃ的散鍼。

肝兪に知熱灸を5層行いドーゼの心配もありますので、初回の治療は終了とし、見脉すると脉に崩れのないことを確認し1週間に1度は来るように指示しました。

2回目5月六日

問診耳がもやもやし1日中むかむかしている。脉診すると右手すんこう沈めて肺虚で左かんじょう肝にはややねばっこいものを感じ、すんこうの心も虚

してはいないように見えました。

又、腹症でも肺の診所につやなく冷たく感じましたので証を肺虚肝実証に換え、右太淵/太白に補法。左対衝よ補中のしゃほうで行い陽経の処理その他表治法はほぼ前回に同じですが、左右のかんゆに知熱灸を3層ずつおこないました。

見脉すると肝の実は取れ脉にスタミナがついたようですので、肺本性のほうがよりよかったと初回の治療は誤りであったと反省しました。

3回目5月十日

問診以前として目眩やむかむかした感じは取れないが、少しずつ食欲が出てきた。

脉診すると今日は肝の実脈はなく肺肝相剋調整で対衝穴を補い腎経は弄らなかった。後は前回に同じ。

4回目5月16日

問診又メニエールの発作が出そうで、気分が悪い。2月より3週間に1度の感覚で、発作を起こし3回も入院しているので不安である。

治療は肺肝相克で継続し左支正穴に皮内鍼を貼付。

5回目5月二十日

問診やはり目眩の発作が出て昨日は寝ていた。今日医者に行き、点滴を受ける。

治療は肺肝相克で継続。

6回目5月25日

問診発作は思ったより軽くすんだが、右の後頭部から後頚ぶにかけてひやひやした感じがある。

途中新潟支部の臨床質問会でこの症例につき尋ねると、メニエールの発作を起こさせないことを重要視するよりも主訴の悪阻を治めてあげるのが先決であり、先天の元気を高めるため少海/列欠に

奇経灸をしたらよいとアドバイスを受ける。

7回目5月30日

耳のもやもやした感じや悪阻はなくなってきたが、今度は子供から風邪が移ったようで、医者でてんてきをうける。

脉診すると肝に実脈を触れ胆/大腸/胃にことや思われる虚生の邪を触れましたので、

対衝/光明/豊隆/偏歴より補中の瀉法を行い、左しょうかい/左れっけつに3、2の奇経灸(知熱灸で代用)を行い、だいついに知熱灸を行なった。

かんゆへの知熱灸は取りやめる。

治療後続けて鍼治療をすれば、目眩の発作感覚もしだいに広がり、悪阻のほうも治まってきたのだから、出産まで引き続き継続することを勧め医師の同委書さえもらえれば、保険診療できるからと説明し帰す。

8回目6月五日

問診5月31日の日に発作が出て点滴を受ける。

頭から頚にかけてのひやひやかんは以前としてあり、吐き気もまたあり、悪阻によるものかメニエールの発作なのかは分からない。

起き上がるとふらふらするような目眩である。

しかし、初回にびっしりあった湿疹がほぼなくなり、腕のほうに残っているだけである。治療は肺虚肝実証で行なう。

治療後患者より「親しい医者より同委書を書いてもらえそうなので、同委書をください」とのことで、継続治療を望んでいられた。

、 考察

この6月五日を持って、患者は来院されなくなり、その後は連絡をとってはいない。これは推測ではありますが、同委書をもらうため医師の診察を受けた際、医師より鍼治療を堅く禁止されたものと推察されます。

開業間もない私にとっては鍼灸院の営業面においての難しさを認識させられた出来事でした。

さて、本症例について反省しますと

1。 証の問題で初回のみ脾肝相剋。2回目以降肺を主証とした点です。

特に強い誤治反応が出たというわけではなかったのですが、肺金の病症が多くそのうえ悪阻という主訴を脾経

腎計/肝計いずれの変動として捕らえたらよいか分からず、いささか消去法的に肺虚を本証にした嫌いがありました。

2。支部でもアドバイスを受けたのですが、治療目標(ゴール)を

悪阻の改善かメニエールの発作の感覚を広げることに重きを置くのかという私自身の意識の置き方が、定まっていなかったこと。

そのことで、気の調整を計る経絡治療において、術者の気が患者に美味く伝わらなかったのではないかと思いました。

3。このように度々発作を起こす重篤な患者では、誠計治療のみではなかなか臨床成績を上げにくく、奇経治療しご治療等の補助療法も時には必要なのかと痛感しました。

私は経験と勉強不足で未だ補助療法を使いこなすことが出来ず、100パーセントの患者に誠経治療で行なっています。これから起訴をしっかり見につけ、そのうえで補助本症例は療法も勉強していきたいと思いますので宜しくお願いします。

結論

本症例は治療の経過やいかなる理由があるにせよ途中で来院されなくなったことを結果としてみますと、失敗例であります。

しかし、経過中度々発作が出て点滴を受けてはいますが、鍼治療をする以前のように発作のため入院するという強い症状は現れていないこと、

むかむかした感じはあるが、食欲ガ少しずつ出てきたこと、

湿疹が初回時よりかなり減少してきたことなどを含めて、考えますと明らかに治療効果が上がりつつあったと

私自身は思っています。

ですからもう少し治療を継続出来ていればという悔やまれる気持ちは強いですが、このように重篤な患者に対しては、

経絡治療こそが治癒に導ける手段であると確信しました。

今後は勉学技術の修練はもちろんですが、患者に理解してもらえる治療法「経絡治療」を一人でも多くの人に施し信頼してもらえる治療科になりたいと思います。

余計なことを書きすぎて長くなりましたが、指導部の先生方と皆様のご指導を宜しくお願いいたします。

平成8年11月4日

追記

この症例は開業5ヶ月目の患者さんであり、初めて妊婦さんを取り扱った症例です。

この年の4月から東洋はり医学会の本部講習生となり11月に行なった治験発表の原稿を掲載いたしました。<

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