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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表夜尿小の症例

2011年3月24日

  治験発表夜尿症の症例

 普通の発達過程においては、2から3歳でオムツが取れ、夜おしっこをしてしまうというようなことはなくなりますが、最近の子供さんでは生活環境も変わり、食生活、アレルギー症状、紙オムツの使用などの影響で、なかなかおねしょが治らないという子供さんが見受けられます。本院でもこの1年間の間に夜尿で困っているとのことで、来院された患者さんがおられましたので、ご紹介いたします。

  東洋医学における尿の作用気所
経絡治療においては尿の精製と排出は三焦/腎/小腸//膀胱が
大きく関係し、最後に肺の気の力によって排出されるものと思われます。
そこで、簡単に各臓腑の役割を説明します。
  三焦は、火性で第13椎に着き、上焦/中焦/下焦に分かれて栄衛の精製伝与および司る循環系統となります。上焦は横隔膜より上を言い、働きは霧のごとくといわれ、治療点は、だんちゅう。中焦は横隔膜より臍までを言い、泡のごとくといわれ、治療点は天数。下焦は臍以下を言い、溝のごとくといわれ、治療点は陰交となります。口より入った五味は中焦胃の部において、吸収された栄ハ下焦においてくんじょうされた衛と合して先天の元気を腎の臓より受けて上焦にいたり心の
臓において赤い血になり天空の気と合して経脈に入り、全身を巡ります。
この栄衛循環は心包によって支配されています。
  小腸は、火性で背の第18椎に着き、上口は噴門噴門といい、下関穴の部で胃と連なり16曲して欄門において大腸につらなる細い管であります。
胃にてふジュクされた五味は小腸に入り、しだいに胃の気が吸い取られ水分と固形物とに分かれながら、欄門(水分穴)にいたります。
  腎は水性で背のだい14椎に着き、父母より受けた先天の元気を司るところで生殖作用および生殖器を司りその生気は栄衛に注入され五体に巡って生命力の根源となっています。又、小腸/膀胱ともに尿の排泄を司っています。
 膀胱は水性で背の第19椎に着き、中局
穴の部にある嚢であります。その上口は水分穴にあるといわれているが、それは治療点としての見方のようです。小腸より分かれた水分はこの部により膀胱に染みとおり蓄えられて後時を得て尿として排泄されます。この排泄のさい、肺気の力が大きく関わってきます。以上は尿を作るために関係している臓腑を臓症論から見たものですが、夜尿をしてしまうということはこの働きが正常になっていないためと考えられ特に陰の代表である水経。陽の代表である火
経のアンバランスが大きな原因であると考えられます。
 次に症例に入ります。
治療をするさいに注意していることは、
1.発育不全の有無。
2.アレルギーなど機能の有無。
3.食事の状況。
4.生活のリズムと睡眠の状態。
5.そのお子さんの性格。
6.親御さんの子供に対する接し方。
などを問診しながら観察しています。

  症例一
患者女児3年生
初診2009年7月4日
主訴 夜尿。
 現病歴 生まれてからほぼ毎日夜尿をしてしまう。
昼間も間に合わなくて漏らしてしまう。専門医を受診し膀胱型(膀胱が小さく尿を貯める容量が少ない)と診断。反射とうには異状はない。
そのほかの症状は眠りすぎる、腹痛。時々体が痒い。
既往なし。食事も甘いものお菓子などは控えているとのこと。  切診
皮膚の状態は体全体は暖かい。背中にざらつき在り。
  腹診
下腹部が突っ張っている。膀胱は硬く小さい。
 脈診
脈状は浮やや虚。
比較脈診肺脾虚小腸はややあり。
 治療法
1回目肺虚証で、円鍼で右尺宅/右陰陵泉に補法。小腸経左しせいに瀉法。腹部の中局/水分/関門にてい鍼で補法。大 椎/命門に補法。背部を円鍼で上から下に左右2回ずつ撫でる。
中局に温灸、左膀胱経の至陰穴にぎんりゅう貼付。
 2回目 治療直後に軟便となるがその後は特に異状はなし。右肺虚肝実証で、水分穴は鍼をしないで、中局に温灸、中局/左至陰にぎんりゅう貼付。
4回目で夜尿がない日が出てきて、左至陰穴のぎんりゅうは取りやめる。証は肺虚肝実証。
7回目 夜尿が又続き始める。ぎんりゅう貼付を取りやめる。
11回目 8月三日ころより夜尿は朝6時ごろにあるようになってくる。しかし、背中臍周りに湿疹が出来始める。証は肺虚肝実証。
左曲池に温灸を加える。その後2回証を脾虚肝実証に換え、後は肺虚証もしくは肺虚肝実証で治療継続の結果、8月21日で1週間以上夜尿がなくなっていたので、週1回の治療で経過観察をして、10月に入っても
全く夜尿はなくなりましたので、25回で完治としました。

  症例2
患者男児6歳
この患者は1歳のころより疳の虫で治療。その後は風邪や熱を出しかけると本院で継続治療をしていたもので、来春から小学校へ上がるので夜尿を治したいということで治療を開始したものです。
 再診 2009年8月24日
主訴 夜尿。
夜尿以外の症状は鼻つまり眼やに。落ち着きがない。
 腹診 腹部は下腹部が硬く小さい。中局穴の左右に横に走るような筋張り。
脈診 脈状は浮やや虚。
証は肺/肝相剋。中局に温灸、左暴行癒/至陰にぎんりゅう。
 2回目で、1回目の治療後から三日夜尿なし。
週2回の通院で9月4日から10月六日の治療まで夜尿が0となった。そのため、週1回の治療に換えた所、
しだいに1週間に1回、もしくは2回の夜尿をする日が出始める。証は肺/肝相剋が中心で、咳や熱、落ち着きがない状態があるようなときは、肺虚肝実証で行なっている。病状は1週間全く夜尿がない状態があったり、3回くらいあるなど安定していない。ぎんりゅうはそのときの状態で貼付するかどうか決めている。
この4月より小学校に入学し、家も引っ越したが現在も週1回の通院中で、3回の夜尿がある状態です。
腹の状態は硬さも取れ、手足も暖かくなっていますが、落ち着きはあまりない状態です。証は時々脾虚証に換え膀胱経を補う治療を行なっている。
4月末現在41回。

  症例三
患者女児9歳
初診2009年9月七日
主訴 残尿感。
 現病歴 最近おしっこが気にかかり我慢していたりなかなかトイレから出られない。緊張しやすいタイプで人見知りもある。

腹診 腹は下腹部が冷たい。
脈診 脈状は沈やや虚。
比較脈診 肺脾肝はややあり。
。体の状態は手足に汗をかいていて、冷たい。皮膚のこそうはない。
その他症状は特になし。既往もない。

 1回目は肺虚肝実証で円鍼で右肺/脾を補法。左肝経を瀉法。てい鍼でちゅうかん/関元/関門に補法。背中大椎/至陽/命門に補法。
背部を円鍼で撫で、下腹部の冷たい部に温灸、中局にぎんりゅうを貼付。4回目まで肺虚あるいは肺虚肝実証。少しずつ気持ちも落着きトイレに行く回数も少なくなる。5回目から肺/肝相剋。ぎんりゅうは取りやめる。
7回目から週1回の通院で、トイレに行く時間が3時間に1回となり、下腹部の冷え、手足の汗も改善されました。
脈状も浮正実となりましたので、2ヶ月11回で完治としました。

  症例4
患者男児4年生
初診 2010年2月二十日
主訴 ほぼ毎日の夜尿。
現病歴 3年ほど前から専門の夜尿治療を受けていた。出来るだけ我慢をして膀胱の容量を大きくさせる治療を受けていたが、本人が切なくて取りやめた。既往は喘息、アトピー性皮膚炎。
現在は症状は治まっている。
その他は夢を多く見る。甘いものを好む。
腹診 腹は下腹部が硬く膀胱部が硬い。 右恥骨上際にこうけつあり。
脈診 脈状 浮ややあり。
比較脈診 肺脾虚肝実。胆ややあり。
体の状態は皮膚はややこそうぎみ。右膀胱
癒にこうけつあり。 1回目 ごう鍼で左太淵に補法。右対衝より補中の瀉法。胆経を円鍼で瀉法。腹部のこうけつと、右膀胱癒のこうけつに深瀉浅補。背中に円鍼。膀胱癒中局に温灸。週2回のペースで通院してもらい、4回目の治療後、自分で起きてトイレにいける日が出はじめる。夜尿がある日でも朝型あるようになってきました。証は肺虚肝実から肺虚/腎虚で治療。
脈症より膀胱経の補法を行なったり、脾虚本証で行なうこともあった。
下腹部の温灸はそのつど虚所見に対して行なっている。
継続の結果、夜尿があっても少量で下腹部の硬さも取れ2ヶ月21回でほぼ良いとして、現在は週1回の経過観察中です。

夜尿症の治療のポイントとしては、
下腹部の冷たさ硬さを取ることや食事の状況を随時確認すること。
通院のさせ方などが転機
ノ良し悪しを決めると思われます。膀胱経の使い方も重要と思われます。以上参考にしてください。
    2010年5月 新潟支部定例会において 広報部 部長 今泉聡

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2009年新潟支部シンポジューム原稿

2011年2月26日

  2009年12月新潟支部シンポジューム原稿

  「証決定技術を高めるための工夫について」

  一初めに
証決定では、望/聞/問/切を駆使して最終的には比較脈診において、証を導き出すものであるが、教科書的には、第1段階体の証と病の証を決定する。
第2段階、患者から得られた情報を経絡的に弁別し、病症がどの経絡によって引き起こされているものかを判断する。
第3段階でその患者が現している病苦がどの経絡によって引き起こされているのか、原因となる経絡を導き出し、証を立てるという手順を踏んでいます。
しかしながら、実地臨床では望/聞/問/切をほぼ同時に行い、経絡的弁別を先にしながら、腹症/脈症を観察して証を決定しているのが現実です。つまり、第1段階の体の証、もしくは、病の証については、後から考察しているのが現状だと思われます。そのことからも診断は陰陽、治療は五行と言いながら、診断も五行的に行い、主証を導き出すことに術者の気持ちが偏っている傾向にありますので、我々はその点ももう一度考えを変えたうえで、正しい証にたどり着く過程を再検討しなおす必要があると考えます。

2第1段階の重要性
 具体的に話を進めていきますと、患者さんを前にしたときにその患者さんが虚体であるのか実体であるのか、その現している病が実証であるのか虚証であるのかということになります。
  あ。 病の虚実
病の虚実に対しては病が新しいか古いか。激しいものか易しいものか。進行状態が急激なものか緩やかなるモノ化ということを大別しなければなりません。
しかし、新しくて激しく急激なる物とか、古くて易しく緩慢なものと綺麗に大別できるものではなく、新しいが症状も激しくなく、わりと緩慢とか、前から悪くて古いけれど痛みや痒みなど症状が激しく急激に悪化したものなど、複雑に絡み合っています。
そこでもう一歩踏み込んで観察しますと、陰陽虚実を組み合わせて、陽実証陽虚証、陰実証陰虚証と4台病症として大別することが出来ると思います。
しかし、本会では4台病症と主証とはあまり結び付けていません。
私は本部研究部会において証決定を病症的立場から判断して導き出す
事を目的とする研究班に所属していますが、そこでもやはり4台病症と主証を結びつけるところまではいたっておりません。今日のテーマの証決定技術を高めるための工夫というところからは直接的には結びつきませんが、提案として診断は陰陽という立場からも、皆さんからこの4台病症についても研究を進めていただきたいと思います。

  い。体の虚実
次に体の虚実ということに対してですが、これは患者さんの生気が充実しているか不足しているものかを見るもので、予後を初め、要鍼の選択手法など大きく関わってきます。この状態を最も現しているものが脈状診ということになります。証決定においては比較脈診が中心とはなりますが、この脈状診ももっと活用して、そこから証に結びつける手がかりを得られれば尚いっそう正しい証に近づけるのではないかと考えられます。

沈遅虚であれば陽虚で肺や脾が多い。浮数虚であれば陰虚で肝虚や腎虚が多いなど、大雑把には言えると思いますが、それをもっと具体的に検証して確実なものにしていく研究が必要だと思います。私は手がかりとして切経をしたとき表面が冷たくやや湿り気味であれば陽虚。患者さんの自覚症状としては冷えを感じていたり火照りを感じていたりしていますが、触ったときに割りと暖かくやや汗ばんでいるようなものは陰虚。浮数虚の脈状で、数脈になっていれば陰虚内熱と見ても良いのではないかと思っています。
これらの事柄を踏まえた上で、五行的に弁別をして腹症と脈症とをにらみ合わせて、診断を下すことがより大切だと思います。
沈実があると思われれば、肝実や脾実があるのではないか、陽虚が目立っているのなら肺や心の虚があるのではないかと推察することがある程度は加納なのではないかと思います。そこで証を導き出すということは針を行なった後の考察が
最も大切になります。これは当然、見腹力見脈力にかかわってきます。正しい証を知るためには間違った証のときにはどのような状態であるかを知っていなければ正しいかいなかの判断は付けられません。これは治療中/治療後、次回の来院時など最初に体を見たときとどのように体の状態が変わったのかそのように見ていかないと正しい証には繋がっていかないと思います。患者の訴えているもしくは、訴えてくる自覚症状に頼りすぎると、その患者の訴えにのみ振り回され、術者の主体性が薄くなってしまいます。
そのことで結局さらなる誤治を重ねてしまうという結果を招きかねません。
「新しい症状が出たら誤治と思いなさい」というのはまさにその通りだと思いますが、逆に言えば患者さんがなんとなく良かったとか、主訴部の改善が見られたからといって、前の証と同じ証を続けて良いのか、換えたほうが良いのかということは、やはり術者の診断力に関わってくるのではないかと思います。

  3 適否の判断
治療中の鍼の適否については、腹症をよく観察するように努めています。各経絡腹症における見所の状態の変化を捕らえることも重要ですが、大きくは腹部全体がどう変化したかをよく見ます。臍を中心に柔らかく温かみを得ていれば証は一応合っているものと判断しています。盛り上がったようだがそれが左右でいびつな状態であったときは、証が違うか適応側が違うものと考えています。
又特に肝経腎経を補ったとき、下腹部が盛り上がり臍がが上に押し上げられたような状態になることがありますが、それは証の違いも考えられますが、補い方に問題があったのではないかと考えています。大まかに臍を中心に柔らかくなったものは、正しい証であったと考え、盛り上がって良くなったように見えても更に硬いものはあ証が異なっていたのではないかと思っています。いうまでもなく脈診による確認は同時に行なっています。
それから、もう一つ適合については、ナソの左右差が少なくなっているか、どうかも手がかりにしています。腹部/脈状/ナソが整っていれば正しい証で合ったといえると思います。

  4 迷ったときのアプローチ
 迷ったときの証決定にすいては、ちゅうかん、もしくは関門/関元にてい鍼/ごう鍼で補法を行なった後診脈することと、相生関係で迷った場合には
肺経/脾経のいずれかを主証にするというときは、まず、親経の脾経太白穴に補法を行い、より肺の脈どころが虚していれば、肺経を主証として良いと思いますので、そのまま太淵を補います。もう一度太白を補うことはしません。肝経/腎経で迷っていたならば腎経の復溜あるいは陰谷に先に行い、より肝の診どころの虚が目立ったならば肝虚証として、次に曲泉を補うことで肝虚証という証を立てます。先に補った復溜などには鍼はしません。
先に補った経で脈が整ったならばそれが本証としますので、
脾虚証/腎虚証が本証がなることになり、そのまま脾虚証ならば心包経、腎虚証ならば肺経を補い治療を続けます。ちなみに、本部講習部ではそのようなやり方を教えてはいませんので、これは本会の統一見解ではないことを予めお断りいたします。

  5 結論
結論としては、つまるところ鍼をしたら脈を見る、脈を見たら鍼をするということになりますが、レジュメにもありますように、脈診にのみ頼りすぎると
正しい証にはなかなかたどり着けないばあいもありますので、体全体の観察とここの病症の観察が重要となります。その人の体質素因になる証をいち早く導き出すことが、正しい証に結び付けて行く、早道と考えます。
 警察で例えるならば、望/聞/問/切で得られた情報は状況証拠ということになります。それを裏付ける脈診が裏づけ捜査であり、自供ということになると思います。
冤罪を生み出さないように、我々も気をつけましょう。

  2009年12月新潟支部定例会において シンポジスト学術部副部長 今泉聡

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治験発表変形性腰椎症

2011年2月23日

  治験発表変形性腰椎症

 患者75歳女性
 この患者は以前平成10年10月21日に初診であった。そのときは主訴が右足の痺れと腰がいらいらとした感じで、数回の治療で右足の痺れが消失し、治療を終えた患者である。今回平成20年8月25日に再来院。
  主訴
右足の痺れと肩の痛み
 望診
小柄で全身に灸の痕と湿疹がある。
 聞診
声に力強さとはりがあまり感じられず五音五声五香は特に当てはまるものがありませんでした。
  問診
現病歴
平成18年の秋に右耳下腺癌で右頬を手術。そのころから腰痛があり、時々は肩も痛くなっていたが、入院して薬を飲んでいる間に腰の痛みは薄らいできた。しかし、本年2月ごろより両腿の後ろ側より膝裏側がつるような感じで痺れと痛みがある。
腰は動き始めが特に悪い。
1週間ほど前から右肩から腕にかけて痛み出した。
 既往歴
子宮筋腫のため手術を受ける。
その他の問診事項
食欲は旺盛。便通はあるが常に硬い。
冷性。灸が良いと聴いて足/手/背中などあちこちに
瘢痕を残していて、それが痒い。
睡眠は目覚めやすい。尿は近く夜中に3回ほどトイレに行く。
耳下腺癌手術後の経過としては特に自覚的症状はないが、右頬が引きつり口が曲がっていて時々口から食事がこぼれることがある。

顔の曲がっていることを大変気にかけている様子である。
  切診
  切経
特に両下腿の前面内側にきゅう痕が多数ある。
灸痕以外にも腕/背中に多数湿疹が出ている。
手足が冷たい。膝下部は冷たいがやや腫脹している。
下部腰椎の変形と右尻にこうけつ圧痛がある。

皮膚はざらつきつやがない。右肩から腕は大腸経ノ経路上に痛みが出ていて、その部が冷たく皮膚もやや突っ張っている。
  腹診
大腹小腹比べて小腹がつやなくざらつき肝/腎の診所虚。脾の診所だけが暖かい。ムノ部はキョロ所見などがなくつやがない感じ。
  脈診
  脈状診
沈やや虚。
比較脈診
左かんじょう沈めて肝最も虚。ついで左しゃくちゅう腎虚。右手かんじょう脾虚。左しゃくちゅう浮かせて膀胱あり。他は平位と診ました。
  証決定
 予後の判定
患者が高齢であり、体全体が冷えていることや皮膚そのものつやとしまりがあまりないことを考慮して予後はやや時間がかかると思い、不良としました。
 体の虚実と病の虚実
体は虚体で陽気が不足している状態。
病においては、肩の痛みは新病、両足の痺れひきつりは旧病、下痢は易症、進行状態緩急は緩慢。
以上の事柄から病の虚実は虚証と判断しました。
したがってこの患者は虚体で虚証を現しているものとしてていはりを用いて治療を行なうことにしました。
  病症の経絡的弁別
目覚めやすい足のつる感じは肝木経の変動。
手足の冷たさ、足の痺れ、膝裏などの腫脹とうは、脾土経の変動。
右肩の痛みと皮膚の痒み湿疹頻尿とうは肺金経の変動。
自覚的に冷えを感じるとうは腎水経の変動としました。
以上の事柄を総合判断した結果、肝脾相剋調整としました。
  治療法
  適応側の判定
特に偏った症状はありませんでしたが、右側の腕の痛みと、臍の充実度耳前動脈の強さが左側にあると思われましたので、左適応としました。
まず、左曲泉にてい鍼を近づけ、接触させながら浮かせるように鍼を引き上げ二呼吸ほど留めた後、鍼を抜鍼しました。見脈し肝の脈所に力を得ましたので、ついで左陰谷に同様の補法を行ないました。
見脈すると左かんじょう/しゃくちゅうの脈がそろいましたので、右かんじょうの脈を注意して見脈しますとやや硬くぼやけていましたので、右陰陵泉を取取穴し補法を行ないました。
見脈しますと右かんじょう脾/胃、陰陽のバランスが取れていましたので、次に陽経の処理に移りました。
脈状は全体的に盛り上がった感じがありましたが、初めに診脈したときに感じていた膀胱にこと思われる虚性の邪をまだ触れましたので、ステン寸31番鍼に持ち替えて左ひよう穴にこに応ずる補中の瀉法を行ないました。
見脈氏邪が取れていることを確認してから見腹見脈を行ないました。
臍の傾きが取れ、平らに腹症が整い、小腹の冷たさも解消されていました。
脈状もやや
硬さがあるものの、陰陽ともにばらつきがなく、揃っていましたので本治法を終了といたしました。
表治法は、ムノ部のつやのないところにてい鍼で補法を行ないました。ナソ部にはキョロ所見などが認められませんでしたので行なわず腹外になってもらってだいつい側のやや右側にてい鍼にて補鍼。陽関付近右側のつやのない部に補鍼。左側のこうけつぶにたいしてステン1番鍼で抵抗を緩める目的で瀉法を行ないました。針。、な
左右の皮膚のバランスを確認後、両腿後ろ側から膝裏ふくらはぎにかけて瀉的散ら鍼を行ないました。最後にようきょうみゃく/とくみゃくのグループで奇経反応を調べましたが、脈状の変化も見られないため、奇経は使わず、腰部に知熱灸とムノ部に知熱灸を行なって1回目の治療を終わりとしました。最後に見脈/見腹を行い崩れのないことを確認して患者には週2回程度の来院を勧め、1回目の治療を終了としました。
  8月26日2回目
夕べも腿の後ろ側がつった。右肩の痛みが出ている。証も表治法も昨日と同じで行ないました。
  8月28日3回目
問診で膝後ろ側に痛みが出ていて、夕べから今朝はなんだか左肩も痛むといわれた。反対側に症状が出てしまったことで、適応側の検討が必要であると思い、少し迷ったが新しい症状が出たという事実は誤治として右側でおこなうこととしました。
あ証は前回と同じで行なっています。
  8月30日4回目
左腕の痛みは消失しました。両腿はあさ歩き始めに痛みがある。膝の脹れが半分くらいに減少してきた。灸痕も綺麗になりつつある。そのような病症の経過からみて証は正しいと判断できたが、適応側に関しては迷いがあり、しかし痛みは一時的なものと認められるので、又左適応として治療を行ないました。今回より左右申脈/後渓に2、1の知熱灸による奇経灸を加えました。
  9月二日5回目
問診で夕べから両側の腿が痺れて痛く、右肩も痛み出しているといわれた。
脈診すると脈状が初めのころより実脈を触れるのでてい
鍼よりごう鍼に切り替えて補法を行なうことにしました。
比較脈診では左手すんこう心の脈が弱く感じられ胃に邪を触れましたので、脾本証として脾/肝相剋調整で行ないました。
表治法は今までと同様に行ないました。見脈見腹で揃ったことを確認し治療を終了としました。左右申脈/後渓に奇経灸を行なっています。
  9月五日6回目
足の痺れはあるが、足のつる感じはなくなってきた。皮膚の湿疹もかなり少なくなっている。証は前回に同じ。
 9月九日7回目
問診で一昨日あたりは腿の後ろ側が痛み出し歩くのが辛かったといわれた。証は右適応側で脾/肝相剋で行い、表治法は同様に行ないました。
9月12日8回目
昨日は両足が痺れ今朝は左の腿の前面がつる。右肩の痛みが移動している。脈状で特に右側のすん/かん/しゃくにばらつきが少なくなり、大腸/胃と、肺/脾の見所の陰陽の差が少なくなっていましたので、肺本証として左肺/肝相剋出行い、表治法はいつもと同じように行ないました。
  9月16日9回目
足の痛みは左に行ったり右に行ったりしているようであるが、右の肩の痛みが夜にも出ているとのことで右陽峪穴に通熱灸を加えました。
証は右肺/肝相剋出行ないました。
  9月二十日10回目
足の突っ張る感じ両肩の痛みは訴えなくなっている。このころより話しかたにも元気が出てきていて右尻のこうけつもかなり小さくなってきている。
脈状も鍼をした後揃いやすくなってきている。右肺/肝の和法で治療を行ないました。
  9月11日11回目
症状は両ふくらはぎがつる感じ。右肩の痛みはあまり訴えていない。左腿の後ろ側に又湿疹が出来て始めている。右肺/肝相剋、左右申脈/後渓に奇経灸を行ないました。
 9月25日の日と、10月二日の日に白内障の手術を予定されていて、医者からは安静にしているようにといわれているので、暫く来院できないので、鍼治療を休むことになった。
  考察
この患者のカルテを読み返していると、旧病である足のつる感じに対しては、場所が移動することがあってもあまり好転も見られていないし、ただし増悪していることもないので、患者の訴えるようにその日によって場所が変わりやすいということを考慮しながら治療を進めていけば大きな失敗には繋がらないと思う。
しかし、新病である右肩の痛みに対して左適応側で治療を続け時々左の腕に痛みを出したり左の膝下がより突っ張るような症状を出しているようなこともあったので、そのときに適応側をどのようにしたら良いかとても迷った。
反体側に症状が出たときに前回行なった適応側の誤りとして判断すべきか、患者の体調の変化や邪の受け方によるものかの判断は非情に難しいと思う。
又、通常であれば右肩の痛みに対して右ナソ所見を的確に捉えることが容易であると思われるが、この患者のように右頚、右耳の後ろにメスを入れた術後で首筋の皮膚が引きつり所見を美味く捕え切れなくて全く鍼をその部に持っていっていないので、そのようなときにもう一歩踏み込んで治療が出来たならば、尚更良かったと反省している。
まだ主訴部の改善がはっきりとしていないので、10月十日より鍼治療を再開する予定であるから、そのへんも含めてのアドバイスを宜しくお願いします。
    2008年9月新潟支部定例会において 学術部副部長 今泉聡

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2008年7月綱領解説

2011年1月26日

2008年7月綱領解説

三番目の綱領

「一つ我々は古典による経絡理論を正しく理解実践し経絡経穴の普及啓蒙に努めもって偉大な祖先の文化遺産を伝承せんことをきす。」

「文化遺産を伝承せんことをきす」とここで言っていますが、最近困ったことに京都の女子大生や名門高校野球部の監督がこともあろうに世界遺産に落書きをして、それが大問題になっています。とても困ったたことです。本人たちからすればほんの軽い気持ちでしてしまったことが、こんな大問題へと発展してしまったということでしょうが、何百年何千年と守り告がれたものに、いたずらとはいえ、それを汚す、破壊するなどの行為をしてしまえば、取り返しのつかないことになる。そのことが分かっていない。そのような考えが本人の頭の中にない及んでいないというところにこの事件は問題があると思います。

日本でも宮大工がほとんどいなくなり、古い寺院の再建が非常に難しくなってきています。補修するにしても改築するにしてもその当時に使っていた材料もなく、又長年にわたって受け継がれてきた技能が消えようとしている。作りたくても作り直せないという現実がここにあるのです。

我々の行っている経絡治療も提唱されてから役70年、東洋はり医学会もやがて50年を迎えようとしています。鍼灸術が日本に伝来されてから千数百年。その鍼灸術がみゃくみゃくと受け継がれて今日の我々があるのです。

っ現代に生きている我々も百年後五百年後千年後の鍼灸師にこの技術を残していかなければなりません。それにっ「正しく理解実践し」ということが非常に重要になります。後世に伝えていくためにはまず、自分自身が経絡治療を正しく理解実践しそれを他の人に伝えていく。そうでなければ途中で我々が今やっているものと全く違った方向性に伝承され、全く違った治療隊形が後世に伝承されることになってしまいます。我々自身が正しい経絡治療というものを身に着けていかないと経絡経穴の普及啓蒙に努めるにも偉大な祖先の文化遺産を伝承することも成し遂げられません。

初代会長福島先生は、経絡治療を世界の果てまで広げようと高い理想を掲げ、それが現在世界中に14、5支部を持つようになりました。東洋はり医学会の組織の優秀なとこ

ろ、優れているところは1年目の人も40年以上やっている人も、本部であろうと新潟支部であろうとイギリス支部であろうと、同じ基本技術に基づいて共通の理解の本で、鍼治療を行っているというところにあると思います。経絡治療を普及啓蒙するためには、まず、我々自身が行っている経絡治療の良い点、不得手な点も含めて熟知してその上で相手に進めていくということが大切です。

相手に伝えるにはまず己を知るということです。そして、経絡治療の発展のみならず、鍼灸術鍼灸行の発展を目指していくような広い心で、普及啓蒙伝承していく、そういう方向で理想は大きく高く果てしなく。しかし、現実をよく見極めて受け止めながら、小さなことから一つずつやっていきましょう。

2008年7月新潟支部定例会において 学術部副部長 今泉 聡

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治験発表生理不順を伴う症例

2011年1月21日

生理不順を伴う症例

1例目 (陽虚外寒の証)

患者30歳女性主婦

主訴

全身倦怠感

現病歴

3年前に出産後、体がだるく、胃痛・頭痛・肩こり・寝つきが悪い。

既往歴

子供のころより喘息、眼や口の周りが痒くなりやすい。生理痛。

家族暦

子供たちと母親が本院で治療中。

望診

身長165センチ体重50キログラム痩せ型。

尺部の色は分かりませんでしたが、切経するとつやはあると判断しました。

聞診

やさしい話し方、5音5声5香は分かりませんでした。

問診

徐脈であり、最近胸が苦しい。睡眠は寝つきが悪く寝た気がしない。立ちくらみ・動悸・食後胃がつかえる。便通は1日1回。わりと尿が近く、夜中1度はトイレに行く。生理が二十日くらいで始まり、終わるまでに1週間以上かかる。

足の冷えを感じる。風邪を引きやすい。

切診

切経

皮膚は薄く冷たい。肌が乾燥しやすい。両ナソ部に生ゴム様所見を触れる。血圧123・68。脈拍47。

腹診

虚腹で胃部が硬い。

脈診

脈状診

沈遅にして虚。

比較脈診

肺・脾・肝の見所虚。陽経胃の見所ややあり。

他は平位と見ました。

病症の経絡的弁別

全身の倦怠感、体がだるい、胃痛、寝つきが悪く寝た気がしない、食後胃がつかえる感じなどは脾土経の変動。

肩こり、皮膚のざらつき、乾燥しやすい風邪を引きやすい、尿が近い、喘息、顔の痒みなどは肺金経の変動。

胸が苦しい、動悸、胃部の硬さは心火経の変動。

立ちくらみ、手足の冷えは腎水経の変動。

生理痛、生理不順、生理が長く続く葉、肝木経の変動。

診断と予後の判定

患者の主訴や病歴などで判断すると、脾の変動が大きく迷いましたが、肺経や脾経の切経や手足の冷たさなどは、上焦の気の巡りが悪く、手足に栄養を及ぼせないためと判断し、証を肺・肝相剋調整としました。

予後は、出産前の28日周期に整理の状態を戻すことと、陽分に不足している気を巡らせることを目的にすれば改善は見込めるものと考えました。

治療および経過

初診 2006年9月11日

銀1寸2番鍼で右太淵・太白・左太衝に補方。見脈し、脈にやや力が出てしっかり触れる

ようになりましたので、陽経の処理として、胃にじゃを触れましたので、こに応ずる補中の瀉法を行いました。

脈が整ったことを確認し、腹部散鍼後、ナソ処置を行い深瀉浅補。

背部に補鍼を行った後、れっけつ・照海に左右5・3の奇経灸を行いました。

治療後、生理周期の改善を目標に治療することを納得してもらい、

終了としました。

9月30日2回目

眠気と頭痛がある。脈診すると肝の見所に滞りを触れましたので、肺・肝の和法とし、皇孫・内関グループで奇経灸を行いました。

次からは排卵日と思われる時期と、生理が始まる前に来院してもらうように治療をすることにしました。

動悸・息苦しさも取れ、生理も27日となり、12月七日生理もすっきりと終わると喜ばれました。ただし、途中子供たちから風邪を移され、咳・痰・鼻水・喉の痛みなど症状が出ました。あるていど生理の周期が安定してきましたので、排卵日などにはかかわらず月3回の治療にするように換えたところ、又次の周期が25日に早まってしまいました。2007年1月12日まで治療をしましたが、眠れるようにもなり、顔の色艶が良くなってやさしい顔つきになったと、母親やだんなが来院したときに言われました。

訪問看護の仕事を再開し、通院を続けるつもりのようでしたが、今は時間が合わず、遠のいています。証はおおむね肺を本証としていますが、寝つきが悪いとの訴えがあったときは脾や腎で行うと結果があまりよくなかったようでありました。

2例目(陰虚内熱の証)

患者女性37歳会社員

主訴

頭痛・全身の冷え。

現病歴

3年ほど前から偏頭痛があり、しだいに後頭部から頸背中にかけて緊張があり、手足の冷えと吐き気がある。

既往歴

小学生のころ扁桃腺を手術。生理不順と痛みのためホルモン剤を服用中。

望診

身長160センチ体重45キロやせ方。

血圧110・60。尺部のつやあり。

問診

頭が常に重く痛くなると頭痛薬を1日一度は飲む。ひどいときは2度も飲むが効かない。

便通1日1回、胃がつかえる感じ、胸苦しい、手足が冷え、特に手で自分の体を触るのも嫌である。夜は眠れず、1度はトイレに行く。

頸肩背中が凝る。風邪を引きやすくとても寒がりである。

生理は月に2回もくることがあり、1週間続くが少量であるとのことでした。

説診

切経

手足先ばかりでなくその上側も触ってみると、非常に冷たい。

ナソ部は特に右側に生ゴム様所見が認められ、頭部を軽く触っても痛がる

腹診

虚腹軟弱で肺の見所虚。

脈診

脈状診

浮数虚

比較脈診

肺脾虚、肝ややあり。胃もややあり。他は平位と見ました。

病症の経絡的弁別

全身の冷え、頸背中にかけての凝り、頭が重い、寒がるは腎水経の変動。

多発性月経、頭痛は肝木経の変動。

吐き気、胃がつかえる、眠れないは脾土経の変動。

風邪を引きやすいは肺金経の変動。

胸苦しいは心火経の変動としました。

診断と予後の判定

この症例も病症から見れば、腎・肝を本証にすべきであると思うが、腹証脈症が一致していることと頭痛や吐き気があるなど、激しい症状は邪が入っているものと見て、肺・肝の和法で行うこととしました。

予後は薬を長く服用し、なおかつ、依存状態にあるため、鍼で症状を軽減させ、薬の服用を控えさせることを目標にして治療を行うこととしました。

治療および経過

初診平成7年1月四日1回目

銀1寸2番鍼にて右太淵・太白に補方。左太衝に和法。豊隆よりこに応ずる補中の瀉法。

見脈し数が治まり浮いていた脈も中位になりましたので、ナソ処置にたいし深瀉浅補。頭部から後頸部背部にたいし虚した部に接触補鍼を行い終了といたしました。

1月九日2回目

治療した日は頭痛薬を飲まなかった。しかし、今日は頭が痛く2回も飲んだが効かないとのことでした。

証は前回と同じとし、もう一度薬の服用を減らしていくように説明し帰宅してもらいました。

1月13日3回目

少し薬を減らしている。脈診で膀胱経の邪を触れ、陰陽の差の大きさより腎・脾に証を換えて治療をしました。

それから6回ほど腎本証で治療をしましたが、、

1月25日この間の治療後、生理が来て腹痛が強かった。昨日は頭痛も強かったといわれました。

頭痛が強いときはれっけつ照海に、そんなに強くないときは照海・れっけつに奇経灸を行っています。

1月30日7回目よりまた肺本証に戻し、頭痛薬の回数も減り、安定剤も飲まないで眠れるようになったとのことであります。

排卵日の時期を中心に治療計画を立て、現在も継続中であります。

考察

どちらの症例とも生理不順を伴うことで、比較治験として発表しましたが、1例目は陽気の不足によりだるさ眠気等、日中はあり、夜はやや寝つきが悪いなど、気虚になっている状態。2例目は薬の服用により血にまで影響が出て逆気症状を引き起こしているものと思われ、体型や症状が似ていても全く正反対の病理像を呈していると思われます。

しかし、両症例とも病症と脈症が一致していないにもかかわらず、諸症状が良い方向へ向かっていると考えたとき、改めて証を決定する難しさを感じます。

最終的には脈症で決定する経絡治療ですが、今後は脈に症状をあわせていける治療かになりたいと思います。

2007年2月新潟支部定例会において 学術指導員 今泉聡)

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