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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表変形性腰椎症

2011年2月23日

  治験発表変形性腰椎症

 患者75歳女性
 この患者は以前平成10年10月21日に初診であった。そのときは主訴が右足の痺れと腰がいらいらとした感じで、数回の治療で右足の痺れが消失し、治療を終えた患者である。今回平成20年8月25日に再来院。
  主訴
右足の痺れと肩の痛み
 望診
小柄で全身に灸の痕と湿疹がある。
 聞診
声に力強さとはりがあまり感じられず五音五声五香は特に当てはまるものがありませんでした。
  問診
現病歴
平成18年の秋に右耳下腺癌で右頬を手術。そのころから腰痛があり、時々は肩も痛くなっていたが、入院して薬を飲んでいる間に腰の痛みは薄らいできた。しかし、本年2月ごろより両腿の後ろ側より膝裏側がつるような感じで痺れと痛みがある。
腰は動き始めが特に悪い。
1週間ほど前から右肩から腕にかけて痛み出した。
 既往歴
子宮筋腫のため手術を受ける。
その他の問診事項
食欲は旺盛。便通はあるが常に硬い。
冷性。灸が良いと聴いて足/手/背中などあちこちに
瘢痕を残していて、それが痒い。
睡眠は目覚めやすい。尿は近く夜中に3回ほどトイレに行く。
耳下腺癌手術後の経過としては特に自覚的症状はないが、右頬が引きつり口が曲がっていて時々口から食事がこぼれることがある。

顔の曲がっていることを大変気にかけている様子である。
  切診
  切経
特に両下腿の前面内側にきゅう痕が多数ある。
灸痕以外にも腕/背中に多数湿疹が出ている。
手足が冷たい。膝下部は冷たいがやや腫脹している。
下部腰椎の変形と右尻にこうけつ圧痛がある。

皮膚はざらつきつやがない。右肩から腕は大腸経ノ経路上に痛みが出ていて、その部が冷たく皮膚もやや突っ張っている。
  腹診
大腹小腹比べて小腹がつやなくざらつき肝/腎の診所虚。脾の診所だけが暖かい。ムノ部はキョロ所見などがなくつやがない感じ。
  脈診
  脈状診
沈やや虚。
比較脈診
左かんじょう沈めて肝最も虚。ついで左しゃくちゅう腎虚。右手かんじょう脾虚。左しゃくちゅう浮かせて膀胱あり。他は平位と診ました。
  証決定
 予後の判定
患者が高齢であり、体全体が冷えていることや皮膚そのものつやとしまりがあまりないことを考慮して予後はやや時間がかかると思い、不良としました。
 体の虚実と病の虚実
体は虚体で陽気が不足している状態。
病においては、肩の痛みは新病、両足の痺れひきつりは旧病、下痢は易症、進行状態緩急は緩慢。
以上の事柄から病の虚実は虚証と判断しました。
したがってこの患者は虚体で虚証を現しているものとしてていはりを用いて治療を行なうことにしました。
  病症の経絡的弁別
目覚めやすい足のつる感じは肝木経の変動。
手足の冷たさ、足の痺れ、膝裏などの腫脹とうは、脾土経の変動。
右肩の痛みと皮膚の痒み湿疹頻尿とうは肺金経の変動。
自覚的に冷えを感じるとうは腎水経の変動としました。
以上の事柄を総合判断した結果、肝脾相剋調整としました。
  治療法
  適応側の判定
特に偏った症状はありませんでしたが、右側の腕の痛みと、臍の充実度耳前動脈の強さが左側にあると思われましたので、左適応としました。
まず、左曲泉にてい鍼を近づけ、接触させながら浮かせるように鍼を引き上げ二呼吸ほど留めた後、鍼を抜鍼しました。見脈し肝の脈所に力を得ましたので、ついで左陰谷に同様の補法を行ないました。
見脈すると左かんじょう/しゃくちゅうの脈がそろいましたので、右かんじょうの脈を注意して見脈しますとやや硬くぼやけていましたので、右陰陵泉を取取穴し補法を行ないました。
見脈しますと右かんじょう脾/胃、陰陽のバランスが取れていましたので、次に陽経の処理に移りました。
脈状は全体的に盛り上がった感じがありましたが、初めに診脈したときに感じていた膀胱にこと思われる虚性の邪をまだ触れましたので、ステン寸31番鍼に持ち替えて左ひよう穴にこに応ずる補中の瀉法を行ないました。
見脈氏邪が取れていることを確認してから見腹見脈を行ないました。
臍の傾きが取れ、平らに腹症が整い、小腹の冷たさも解消されていました。
脈状もやや
硬さがあるものの、陰陽ともにばらつきがなく、揃っていましたので本治法を終了といたしました。
表治法は、ムノ部のつやのないところにてい鍼で補法を行ないました。ナソ部にはキョロ所見などが認められませんでしたので行なわず腹外になってもらってだいつい側のやや右側にてい鍼にて補鍼。陽関付近右側のつやのない部に補鍼。左側のこうけつぶにたいしてステン1番鍼で抵抗を緩める目的で瀉法を行ないました。針。、な
左右の皮膚のバランスを確認後、両腿後ろ側から膝裏ふくらはぎにかけて瀉的散ら鍼を行ないました。最後にようきょうみゃく/とくみゃくのグループで奇経反応を調べましたが、脈状の変化も見られないため、奇経は使わず、腰部に知熱灸とムノ部に知熱灸を行なって1回目の治療を終わりとしました。最後に見脈/見腹を行い崩れのないことを確認して患者には週2回程度の来院を勧め、1回目の治療を終了としました。
  8月26日2回目
夕べも腿の後ろ側がつった。右肩の痛みが出ている。証も表治法も昨日と同じで行ないました。
  8月28日3回目
問診で膝後ろ側に痛みが出ていて、夕べから今朝はなんだか左肩も痛むといわれた。反対側に症状が出てしまったことで、適応側の検討が必要であると思い、少し迷ったが新しい症状が出たという事実は誤治として右側でおこなうこととしました。
あ証は前回と同じで行なっています。
  8月30日4回目
左腕の痛みは消失しました。両腿はあさ歩き始めに痛みがある。膝の脹れが半分くらいに減少してきた。灸痕も綺麗になりつつある。そのような病症の経過からみて証は正しいと判断できたが、適応側に関しては迷いがあり、しかし痛みは一時的なものと認められるので、又左適応として治療を行ないました。今回より左右申脈/後渓に2、1の知熱灸による奇経灸を加えました。
  9月二日5回目
問診で夕べから両側の腿が痺れて痛く、右肩も痛み出しているといわれた。
脈診すると脈状が初めのころより実脈を触れるのでてい
鍼よりごう鍼に切り替えて補法を行なうことにしました。
比較脈診では左手すんこう心の脈が弱く感じられ胃に邪を触れましたので、脾本証として脾/肝相剋調整で行ないました。
表治法は今までと同様に行ないました。見脈見腹で揃ったことを確認し治療を終了としました。左右申脈/後渓に奇経灸を行なっています。
  9月五日6回目
足の痺れはあるが、足のつる感じはなくなってきた。皮膚の湿疹もかなり少なくなっている。証は前回に同じ。
 9月九日7回目
問診で一昨日あたりは腿の後ろ側が痛み出し歩くのが辛かったといわれた。証は右適応側で脾/肝相剋で行い、表治法は同様に行ないました。
9月12日8回目
昨日は両足が痺れ今朝は左の腿の前面がつる。右肩の痛みが移動している。脈状で特に右側のすん/かん/しゃくにばらつきが少なくなり、大腸/胃と、肺/脾の見所の陰陽の差が少なくなっていましたので、肺本証として左肺/肝相剋出行い、表治法はいつもと同じように行ないました。
  9月16日9回目
足の痛みは左に行ったり右に行ったりしているようであるが、右の肩の痛みが夜にも出ているとのことで右陽峪穴に通熱灸を加えました。
証は右肺/肝相剋出行ないました。
  9月二十日10回目
足の突っ張る感じ両肩の痛みは訴えなくなっている。このころより話しかたにも元気が出てきていて右尻のこうけつもかなり小さくなってきている。
脈状も鍼をした後揃いやすくなってきている。右肺/肝の和法で治療を行ないました。
  9月11日11回目
症状は両ふくらはぎがつる感じ。右肩の痛みはあまり訴えていない。左腿の後ろ側に又湿疹が出来て始めている。右肺/肝相剋、左右申脈/後渓に奇経灸を行ないました。
 9月25日の日と、10月二日の日に白内障の手術を予定されていて、医者からは安静にしているようにといわれているので、暫く来院できないので、鍼治療を休むことになった。
  考察
この患者のカルテを読み返していると、旧病である足のつる感じに対しては、場所が移動することがあってもあまり好転も見られていないし、ただし増悪していることもないので、患者の訴えるようにその日によって場所が変わりやすいということを考慮しながら治療を進めていけば大きな失敗には繋がらないと思う。
しかし、新病である右肩の痛みに対して左適応側で治療を続け時々左の腕に痛みを出したり左の膝下がより突っ張るような症状を出しているようなこともあったので、そのときに適応側をどのようにしたら良いかとても迷った。
反体側に症状が出たときに前回行なった適応側の誤りとして判断すべきか、患者の体調の変化や邪の受け方によるものかの判断は非情に難しいと思う。
又、通常であれば右肩の痛みに対して右ナソ所見を的確に捉えることが容易であると思われるが、この患者のように右頚、右耳の後ろにメスを入れた術後で首筋の皮膚が引きつり所見を美味く捕え切れなくて全く鍼をその部に持っていっていないので、そのようなときにもう一歩踏み込んで治療が出来たならば、尚更良かったと反省している。
まだ主訴部の改善がはっきりとしていないので、10月十日より鍼治療を再開する予定であるから、そのへんも含めてのアドバイスを宜しくお願いします。
    2008年9月新潟支部定例会において 学術部副部長 今泉聡

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