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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

2009年新潟支部シンポジューム原稿

2011年2月26日

  2009年12月新潟支部シンポジューム原稿

  「証決定技術を高めるための工夫について」

  一初めに
証決定では、望/聞/問/切を駆使して最終的には比較脈診において、証を導き出すものであるが、教科書的には、第1段階体の証と病の証を決定する。
第2段階、患者から得られた情報を経絡的に弁別し、病症がどの経絡によって引き起こされているものかを判断する。
第3段階でその患者が現している病苦がどの経絡によって引き起こされているのか、原因となる経絡を導き出し、証を立てるという手順を踏んでいます。
しかしながら、実地臨床では望/聞/問/切をほぼ同時に行い、経絡的弁別を先にしながら、腹症/脈症を観察して証を決定しているのが現実です。つまり、第1段階の体の証、もしくは、病の証については、後から考察しているのが現状だと思われます。そのことからも診断は陰陽、治療は五行と言いながら、診断も五行的に行い、主証を導き出すことに術者の気持ちが偏っている傾向にありますので、我々はその点ももう一度考えを変えたうえで、正しい証にたどり着く過程を再検討しなおす必要があると考えます。

2第1段階の重要性
 具体的に話を進めていきますと、患者さんを前にしたときにその患者さんが虚体であるのか実体であるのか、その現している病が実証であるのか虚証であるのかということになります。
  あ。 病の虚実
病の虚実に対しては病が新しいか古いか。激しいものか易しいものか。進行状態が急激なものか緩やかなるモノ化ということを大別しなければなりません。
しかし、新しくて激しく急激なる物とか、古くて易しく緩慢なものと綺麗に大別できるものではなく、新しいが症状も激しくなく、わりと緩慢とか、前から悪くて古いけれど痛みや痒みなど症状が激しく急激に悪化したものなど、複雑に絡み合っています。
そこでもう一歩踏み込んで観察しますと、陰陽虚実を組み合わせて、陽実証陽虚証、陰実証陰虚証と4台病症として大別することが出来ると思います。
しかし、本会では4台病症と主証とはあまり結び付けていません。
私は本部研究部会において証決定を病症的立場から判断して導き出す
事を目的とする研究班に所属していますが、そこでもやはり4台病症と主証を結びつけるところまではいたっておりません。今日のテーマの証決定技術を高めるための工夫というところからは直接的には結びつきませんが、提案として診断は陰陽という立場からも、皆さんからこの4台病症についても研究を進めていただきたいと思います。

  い。体の虚実
次に体の虚実ということに対してですが、これは患者さんの生気が充実しているか不足しているものかを見るもので、予後を初め、要鍼の選択手法など大きく関わってきます。この状態を最も現しているものが脈状診ということになります。証決定においては比較脈診が中心とはなりますが、この脈状診ももっと活用して、そこから証に結びつける手がかりを得られれば尚いっそう正しい証に近づけるのではないかと考えられます。

沈遅虚であれば陽虚で肺や脾が多い。浮数虚であれば陰虚で肝虚や腎虚が多いなど、大雑把には言えると思いますが、それをもっと具体的に検証して確実なものにしていく研究が必要だと思います。私は手がかりとして切経をしたとき表面が冷たくやや湿り気味であれば陽虚。患者さんの自覚症状としては冷えを感じていたり火照りを感じていたりしていますが、触ったときに割りと暖かくやや汗ばんでいるようなものは陰虚。浮数虚の脈状で、数脈になっていれば陰虚内熱と見ても良いのではないかと思っています。
これらの事柄を踏まえた上で、五行的に弁別をして腹症と脈症とをにらみ合わせて、診断を下すことがより大切だと思います。
沈実があると思われれば、肝実や脾実があるのではないか、陽虚が目立っているのなら肺や心の虚があるのではないかと推察することがある程度は加納なのではないかと思います。そこで証を導き出すということは針を行なった後の考察が
最も大切になります。これは当然、見腹力見脈力にかかわってきます。正しい証を知るためには間違った証のときにはどのような状態であるかを知っていなければ正しいかいなかの判断は付けられません。これは治療中/治療後、次回の来院時など最初に体を見たときとどのように体の状態が変わったのかそのように見ていかないと正しい証には繋がっていかないと思います。患者の訴えているもしくは、訴えてくる自覚症状に頼りすぎると、その患者の訴えにのみ振り回され、術者の主体性が薄くなってしまいます。
そのことで結局さらなる誤治を重ねてしまうという結果を招きかねません。
「新しい症状が出たら誤治と思いなさい」というのはまさにその通りだと思いますが、逆に言えば患者さんがなんとなく良かったとか、主訴部の改善が見られたからといって、前の証と同じ証を続けて良いのか、換えたほうが良いのかということは、やはり術者の診断力に関わってくるのではないかと思います。

  3 適否の判断
治療中の鍼の適否については、腹症をよく観察するように努めています。各経絡腹症における見所の状態の変化を捕らえることも重要ですが、大きくは腹部全体がどう変化したかをよく見ます。臍を中心に柔らかく温かみを得ていれば証は一応合っているものと判断しています。盛り上がったようだがそれが左右でいびつな状態であったときは、証が違うか適応側が違うものと考えています。
又特に肝経腎経を補ったとき、下腹部が盛り上がり臍がが上に押し上げられたような状態になることがありますが、それは証の違いも考えられますが、補い方に問題があったのではないかと考えています。大まかに臍を中心に柔らかくなったものは、正しい証であったと考え、盛り上がって良くなったように見えても更に硬いものはあ証が異なっていたのではないかと思っています。いうまでもなく脈診による確認は同時に行なっています。
それから、もう一つ適合については、ナソの左右差が少なくなっているか、どうかも手がかりにしています。腹部/脈状/ナソが整っていれば正しい証で合ったといえると思います。

  4 迷ったときのアプローチ
 迷ったときの証決定にすいては、ちゅうかん、もしくは関門/関元にてい鍼/ごう鍼で補法を行なった後診脈することと、相生関係で迷った場合には
肺経/脾経のいずれかを主証にするというときは、まず、親経の脾経太白穴に補法を行い、より肺の脈どころが虚していれば、肺経を主証として良いと思いますので、そのまま太淵を補います。もう一度太白を補うことはしません。肝経/腎経で迷っていたならば腎経の復溜あるいは陰谷に先に行い、より肝の診どころの虚が目立ったならば肝虚証として、次に曲泉を補うことで肝虚証という証を立てます。先に補った復溜などには鍼はしません。
先に補った経で脈が整ったならばそれが本証としますので、
脾虚証/腎虚証が本証がなることになり、そのまま脾虚証ならば心包経、腎虚証ならば肺経を補い治療を続けます。ちなみに、本部講習部ではそのようなやり方を教えてはいませんので、これは本会の統一見解ではないことを予めお断りいたします。

  5 結論
結論としては、つまるところ鍼をしたら脈を見る、脈を見たら鍼をするということになりますが、レジュメにもありますように、脈診にのみ頼りすぎると
正しい証にはなかなかたどり着けないばあいもありますので、体全体の観察とここの病症の観察が重要となります。その人の体質素因になる証をいち早く導き出すことが、正しい証に結び付けて行く、早道と考えます。
 警察で例えるならば、望/聞/問/切で得られた情報は状況証拠ということになります。それを裏付ける脈診が裏づけ捜査であり、自供ということになると思います。
冤罪を生み出さないように、我々も気をつけましょう。

  2009年12月新潟支部定例会において シンポジスト学術部副部長 今泉聡

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