神経症と心身症との違い検討します!
皆さんは、「神経症」と、「心身症」の違いを理解していますか?
この欄では、少しこの二つについての違いを開設してみます。
これら二つの概念は、一般的には「ストレスによる病気」として混同される傾向に
ありますが、臨床医学の文脈においては、その病理的基盤、症状の発現機序、そして診断
体系上の位置づけが明確に区別されています。心身症は、特定の単一疾患を指すものでは
なく、心理社会的因子がその発症や経過に密接に関与する「身体疾患」の総称です。
一方で、神経症は伝統的に、心理的葛藤や不安を主因とする「精神障害」の
範疇に含まれてきた概念です。
心身症の定義と診断学的枠組み
心身症の定義は、一言でいえば、あくまでも「身体の病気」であるという点である。
心身症は「身体疾患の中で、その発症や経過に心理、社会的因子が密接に関与し、
器質的ないし機能的障害が認められる病態」と定義される 。
この定義を分析すると、
第一に、実際に内科や整形外科、皮膚科などの領域で扱うような客観的な「身体症状」
または「疾患」が存在すること。
第二に、その疾患の発生や症状の悪化、あるいは回復の遅延に、日常生活のストレスや
人間関係などの「心理社会的因子」が強く影響していること。
第三に、神経症やうつ病など、他の精神障害に直接起因する身体症状は、
定義上、心身症からは除外されるという点で
ある 。
心身症においては、器質的病変(胃潰瘍や気管支喘息の炎症)のように、臓器の構造
そのものに物質的な変化が生じ、検査で目に見える異常として確認できる状態を指す。
一方、機能的障害とは、過敏性腸症候群に見られるように、臓器の構造自体には破壊は
見られないものの、その働き(運動や分泌など)に異常が生じ、痛みや違和感を
引き起こす状態である 。
心身症においては、この器質的病変を起こしているのか、機能的病変を起こして
いるのか、この違いを理解することが、大切である。
以上心身症の特徴を表にすると以下の通り。
| 項目 | 心身症の特性 | 備考 |
|---|---|---|
| 疾患分類 | 身体疾患の一形態 | あくまで「身体の病気」が主役 |
| 心理因子の関与 | 発症・経過に密接に関与 | ストレスが原因あるいは増悪因子 |
| 器質的変化 | 認められる場合が多い(潰瘍、炎症等) | 組織の物理的損傷を伴う |
| 機能的変化 | 認められる(痙攣、分泌異常等) | 働き(動き)の異常 |
神経症(Neurosis)という言葉は、かつて精神医学において極めて広範な意味を持って
いたが、現代では、「神経症」という大きなカテゴリーは実質的に解体され、
以下のような具体的な疾患群に再編された 。
* 不安症群(Anxiety Disorders): パニック症、社交不安症、全般不安症など。
主として精神的な不安が前面に出る。
* 強迫症および関連症群(Obsessive-Compulsive and Related Disorders):
強迫観念や強迫行為を主徴とする。
* 身体症状症および関連症群(Somatic Symptom and Related Disorders):
従来の「身体表現性障害」に相当し、身体の違和感や苦痛に対する過度な思考や行動が問題となる。
* 解離性症群(Dissociative Disorders): 意識や記憶の分断を特徴とし、
かつての「ヒステリー(転換型)」の一部を含む。
神経症の特徴は、心が主体となって症状が形成される点にある。例えば、神経症に
伴う動悸やめまいは、不安という感情が自律神経を刺激した結果生じる
「生理的な反応」の自覚、あるいは心理的な葛藤が身体の形を借りて表現されたもの
(象徴的意味を持つ症状)である。
これに対し、心身症における身体症状は、心理的ストレスが持続した結果としての
「組織の摩耗や破綻」という側面が強い 。
心身症と神経症の臨床的差異:比較分析
両者の決定的な違いは、「身体的異常の有無」と「心理的因子の関与の仕方」にある。
身体的側面からの比較
心身症は、内科的・医学的な意味での「病気」が確実に存在している。胃潰瘍であれば
胃粘膜に穴が開き、喘息であれば気道が炎症を起こし狭窄しているという、客観的な
病理像が認められる 。患者の主訴は「お腹が痛い」「息が苦しい」といった具体的な
身体の苦痛に集約される 。
一方、神経症(特に身体症状症など)においては、患者は強い身体的苦痛や違和感を
訴えるものの、臨床検査(内視鏡、CT、血液検査など)では、その症状を説明するのに
十分な器質的異常が見つからないのが一般的である 。つまり、身体そのものの病変
よりも、その症状をどのように感じ、どのように過剰な不安を抱いているかという
「心の反応」が病態の本質となる 。
心理的側面と象徴性の比較
神経症における症状は、「嫌な現実を見たくない」という葛藤が視力障害として
現れたり、「言いたいことを言えない」という抑制が声が出なくなる症状として現れたりする場合である 。
このように、症状と心理的背景の間に意味的なつながりを見出しやすいのが神経症の
特徴である。
心身症における症状(例えば高血圧や蕁麻疹)には、神経症のように一般的な象徴的な
意味はなく、むしろ、無理な仕事を続けたり、感情を押し殺して環境に適応しようと
したりした結果、身体のリズムが物理的に破綻した結果として症状が現れる。
いわば、身体が限界を超えて「悲鳴を上げている」状態に近い 。
臨床的差異の要約表
以下の表に、心身症と神経症の主要な相違点を整理する。
| 比較項目 | 心身症 | 神経症(不安症、身体症状症等) |
|---|---|---|
| 疾患の主役 | 身体(医学的な病気) | 心(精神的な葛藤・不安) |
| 客観的異常 | 認められる(潰瘍、炎症等) | 認められないことが多い |
| 患者の主訴 | 身体症状の改善 | 不安、違和感、恐怖 |
| ストレスの自覚 | 乏しい場合が多い(無自覚) | 顕著である場合が多い(不安感)|
| 性格傾向 | アレキシサイミア、過剰適応 | 神経質、不安傾向、内省的 |
| 症状の象徴性 | 認められないのが一般的 | 認められることがある |
| 診療の主導 | 心療内科(内科的治療を伴う) | 精神科(精神療法・薬物療法中心)|
各診療科における心身症の具体例
心身症は全身のあらゆるシステムに現れる可能性がある。心理社会的因子が深く関与している代表的な疾患を以下に分類する。
消化器・循環器・呼吸器疾患
消化器系は「心の鏡」とも呼ばれ、最も心身症が現れやすい領域である。
* 過敏性腸症候群(IBS): 検査で炎症は見られないが、ストレスにより腸の運動が
過敏になり、腹痛や便秘・下痢を繰り返す機能的障害の代表例 。
* 胃・十二指腸潰瘍: ストレスによる胃酸過多と粘膜防御機能の低下により、実際に
組織が欠損する器質的障害 。
* 本態性高血圧: 遺伝的要因に加え、慢性的緊張やせかせかした性格傾向(タイプA行動パターン)が血圧を上昇させる 。
* 気管支喘息: アレルギー要因だけでなく、心理的ストレスが自律神経を介して
気管支の収縮を誘発し、発作を悪化させる 。
皮膚・産婦人科・その他の領域
* アトピー性皮膚炎・蕁麻疹: ストレスによる免疫バランスの乱れが痒みや炎症を
増悪させる 。
* 月経困難症・更年期障害: 女性ホルモンの変動と心理的ストレスが相互に影響し、
症状を重篤化させる 。
* 円形脱毛症: 自己免疫の異常がストレスをきっかけに誘発される 。
* 緊張型頭痛・片頭痛: 筋肉の緊張や血管の収縮・拡張が心理的因子に左右される 。
これらの疾患を「心身症」として扱うかどうかの基準は、単に病名が一致することでは
なく、その患者において「ストレスの存在が発症や経過と密接に関係していること」を
確認できた時である 。
精神科と心療内科の棲み分け
臨床現場における役割分担は、主症状が「心」にあるか「身体」にあるかによって区分
されるのが一般的である 。
| 項目 | 精神科(神経科・メンタルクリニック) | 心療内科 |
|---|---|---|
| 治療の対象 | 気分、思考、行動の異常(心の症状) | ストレスによる身体の不調(
身体の症状) |
| 主な疾患例 | 統合失調症、双極性障害、重度のうつ病、不安症、発達障害、認知症 | 過敏性腸症候群、胃潰瘍、喘息、高血圧、原因不明の痛み |
| アプローチ | 精神医学的診察、脳機能への介入 | 内科的診察+心理的アプローチ |
| 判断の目安 | 「死にたい」「やる気が出ない」「幻覚が見える」「強い不安」 |
「検査で異常なしと言われたが体が痛い」「ストレスで下痢が続く」 |
心身症に対する多面的治療
心身症の治療は「心身両面からのアプローチ」が不可欠である 。
* 身体的アプローチ(薬物療法): 疾患そのものを治療する薬剤(抗潰瘍薬、降圧薬、気管支拡張薬など)を主軸とし、症状を物理的に和らげる 。
* 向精神薬の補助的使用: 抗不安薬や抗うつ薬、睡眠薬などを用いて、脳の視床下部や自律神経系の過剰な興奮を鎮める 。
* 自律訓練法(Autogenic Training): シュルツによって開発された
リラクセーション法であり、自己暗示を用いて「手が温かい」
「心臓が静かに打っている」といった練習を繰り返すことで、自律神経のバランスを
自己調整する能力を養う 。
* 認知行動療法(CBT): 自分の症状とストレスの相関を理解し、不適切な生活習慣や
思考の癖(例えば「完璧でなければならない」という思い込み)を修正して、新しい
ストレス対処法(コーピング)を身につける 。
* 環境調整と生活指導: 睡眠、食事、運動の習慣を整え、ホメオスタシスの回復を
助けるとともに、必要に応じて休職や職場復帰のサポートを行う 。
神経症(不安症群など)に対する専門的治療
神経症の治療では、主症状である不安や恐怖、強迫観念の軽減が最優先される。
* 薬物療法: SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが主剤となり、
不安の閾値を下げることで「悪循環の回路」を回り難くする 。
* 専門的心理療法:
* パニック症: 身体感覚に対する「破局的認知(死んでしまう、狂ってしまうと
いった極端な解釈)」を修正し、段階的に不安な場面に身を置く練習
(エクスポージャー)を行う 。
* 社交不安症: 対人場面での回避行動(安全保障行動)を減らし、現実の反応を確認する作業を繰り返す 。
まとめ
心身症は、単なる「気のせい」でも「意志の弱さ」でもなく、身体が物理的な異常を
来している「病気」である 。
神経症における身体症状は、精神的な苦痛のシグナルであり、その背後にある不安の
正体に向き合うことが求められる。
結論として、神経症と心身症の最大の違いは、疾患の主座が「心」にあるか「身体」に
あるかという点にある。しかし、両者は独立して存在するのではなく、互いに連続し、
あるいは併存するスペクトラムのような関係にあるとも言える。心身症を治療する過程で抑うつや不安が表面化することもあれば、神経症が長期化して身体の器質的変化
(心身症化)を招くこともある。
我々、医療従事者ばかりではなく、現実として、これらの苦痛に悩まれている方々から
しても、神経症と心身症との違いは、非常に複雑なので、わかりにくく、上にあげた、
どのような症状で、どの病院にかかればよいのかなど、迷うところだと思われます。
しかし、自己判断で、診断を下し、身体の重篤な病気を見逃したり、ストレスを我慢して
やり過ごすなど、誤った方向に向かわないように、気を付ける必要があると思います。
この欄の記事をお読みいただき、多少でも、ご参考にしていただければと思って
おります。神経症は、「心」が主役となって症状を引き起こしているもの、心身症は、
「身体」が主役となって、ストレスや長年の生活環境が体に悲鳴を上げさせている状態と、ご理解いただければ、よいかと思います。