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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表慢性気管支炎

2010年7月7日

慢性気管支炎

患者30歳 女性会社員

初診 平成9年4月26日

主訴

咳が出て止まらない。

望診

身長155センチ程度でとても痩せている。

聞診

話をしていても時々咳が出るが、音は乾いていて痰が絡んでいるような様子はない。特に呼気時(話しをしようとするとき)に咳が出るようである。5音5声は分かりませんでした。

問診

現病歴

5、6年前になると思うが、春や秋になりかけの頃よく咳が出るようになり始め、年数を重ねるごとにひどくなり、最近では一年中咳き込むようになった。くしゃみや鼻水、喉がむずむずするような感じがある。最初はアレルギーかとも思い医者を受信するが、よくならず気管支喘息ではないかと言われた。

そして、漢方薬を暫く続けたが、効果がないため鍼治療に来られたとのことであった。

その他咳は寝ていると治まっていて、日中に良く照るようである。

足の冷えがあるが、肩凝り/腹痛/食欲/便通/睡眠などの自覚症状はない。

切診

切経

体全体が細く虚体である。皮膚は滑らかで気の巡りが速そうである。ナソ部は両方とも緊張が強く特に右側の斜角筋前部にナマゴムヨウ所見あり。

側頚部のリンパ節もやや腫脹している。肩背部も緊張している。

腹診

肋骨弓角が狭く胃下垂タイプ。大腹小腹ともにひらべったい。

経絡腹診では、右実月から腹哀にかけて肺の診所かんげして虚。心下部を按ずると空虚な感じがある。

脉診

脉状診

細い脈だが浮やや数にして虚。

比較脉診

右手すんこう沈めて肺最も虚。ついで左手かんじょう沈めて肝虚。右手かんじょう沈めて脾虚。浮かせて胃虚。同じくしゃくちゅう浮かせて三焦きょ。他派平位と診ました。

病症の経絡的弁別

皮膚が滑らか、主訴の咳/くしゃみ/鼻水やや神経質等は肺金経の変動。

喉がむずむずする、胃下垂痩せ型は脾土経の変動。

足の冷えは腎水経の変動としました。

証決定

以上の事柄を総合的に判断し、肺肝相剋調整の証を立てました。

予後の判定

やや神経質そうで、鍼も恐る恐る

といった感じであるので、気を漏らさぬよう注意し、体質改善を目的に継続治療に持ち込めればよい結果は得られると思いました。

治療および経過

まず、8分1番鍼を持ち、取穴しようとすると患者から「鍼は痛くないのですか?」と急に恐ろしくなったようであったため、初回であることも考慮し、金ていしんで右太淵にたいし直鍼にて皮膚表面に軽く当て気をうかがっていると呼吸がやや深くなったのでていしんを離しついで右の太白、左のちゅう封に補法。見脉すると脈状はさほど変わらないが、やや数から遅に落着いて来たので陽経の処理に移り

左右外関/右三里に補法。見脉し陽経に邪のないことを確認し表治法に移る。

表治法は患者に分からないように銀8部1番鍼で腹部の反応に対し切皮鍼。

ナソ部はナマゴムヨウ所見に対しやや鍼をし、堅い部で押し付けたり緩めたりして緊張を取り除く。腹外にて背腰部には右は緊張があり瀉的散鍼。

左は補的散鍼。最後に心中に圧痛があったので知熱灸を3層。脉診の結果乱れのないことを確認し、初回の治療を終了した。

本来ならば間をおかずに治療をしたいところだが遠方より来られるため、週1度の治療で暫く続けることにしました。

2回目5月二日

問診咳はあまり変わらずに出る。患者さんから「鍼を刺したほうが効くのでしょう。普通の鍼で治療をしてください」と言われた。

8分1番鍼にて経にしたがって取穴し静かに刺入し、才気した後、左右圧をかけ素早く抜鍼すると同時に針穴を閉じる補法を経渠/商丘/中封(けいきんけつ)に行う。見脉するとやや脉に厚みを感じたが、陽経の邪は捕らえられなかった。その他はほぼ前回に同じだが、肺輸に圧痛が強くあったため円皮鍼を貼付した。

3回目5月十日

問診やや咳が治まってきた。ナソ部の所見がやや緩み頚部のリンパ節の腫脹はほぼ触れなくなってきた。背中は緊張し痒みがある。治療は肺肝相剋。

4回目5月1七日

問診昨日は凄く咳が出た。

肺肝相剋で継続。

5回目5月23日

問診発作のような咳はなくなってきたが、昼間仕事をしていると、咳が出てしかたがない。肺肝相剋だが、円皮鍼を肺輸より右の中不に換える。

6回目6月二日

問診最近発作のような咳がなかったのに、今日の昼食中気管支に食べ物が入り咳き込みそれがずっと止まらない。(数時間経過している)治療は肺肝相剋で咳は治まる。

7回目7月25日

問診梅雨に入ってからずっと調子が良く咳はあまり出なくなっていたが、梅雨開けとともに又咳が出始め特に昼間に出る。治療肺肝相剋。

治療後少し良くなっても安心しないで完全に治すつもりで鍼にかかるよう勧めたが以来来院はされていない。

考察

経絡治療において気管支喘息/気管支炎/アレルギー性疾患などは、最も適応性のある症例であったと思われますが、そのチャンスを生かすことは出来ませんでした。最後の来院時に「梅雨時季は咳があまり出なかった」とのことでやや改善傾向にあったのに、治療継続をさせることが出来ませんでした。反省すべき点は、整脉力と取穴手法においても、未熟なため、陽経にあるはずの邪を浮かしきれず

捕らえる事が出来なかったことです。これからはもっと身長に取穴手法に取り組み整脈力を付けたいと思います。

又、補助的な治療として円皮鍼の使い方、火内鍼、知熱灸、奇経治療等の工夫が必要であったと反省させられました。しかし、良かったことは他の患者さんからも言われますが、「はりって痛くないですね」という鍼にたいする恐怖心を少しはなくすることが出来たことです。

これからも体質改善を必要とする慢性病は、経絡治療の最も効果を発揮できる症例であると思っていますので、積極的に取り組んで行きたいと思います。

いろいろとアドバイス注意点など教えてください。

平成9年新潟支部定例会に置いて 新潟支部員 今泉聡

追申

この症例は開業2年目のもので、調度経絡治療のおもしろさと難しさを感じ始めていたころのものです。

今、こうして読み返してみますと、症状の変化があったときなどにたいしての治療方針の稚拙さを感じますが、このころはまだ呼吸器病は肺経絡の変動が必ずあるものであるというへんな拘りがあったように見えますね。

しかし、経絡治療においては補法優先、陰主用従という原則がありますが、

本人が考察しているようにこのころは陽経に邪を浮かせきれずそれを処理するまでの整脈力がなかったことが治癒に導けなかった要因ではないかと推察できますし、10数年たった今でもこのようなことはたくさんありますが、

患者さんへのアプローチはとても難しく特に遠方の患者さんは通院感覚が開いてしまいがちになるため、どうしてもこのような結果になってしまうと考えられます。治療科の技術もありますが、患者さん自信の

通い方も治るときの大きなポイントとなりますので、鍼灸師の方は参考にしてください。

開業2年目の新米鍼灸師にたいして自分が好評を加えてみました。

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