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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表鬱病

2010年7月15日

鬱病

高等部今泉 聡

患者55歳女性主婦。

初診 平成10年5月27日

主訴

頭痛と倦怠感。

現病歴

20年ほど前に家庭内のいざこざにより精神的に不安定となり、胸から背中にかけて苦しくなり、時々激痛が走るようになった。更に、頭痛が出るようになり入院した結果、胸から背中の痛みは取れたが、頭痛は残りほぼ毎日のように後頭部から頭頂部にかけてずきずきするような痛みがある。血圧はやや高めで、肩凝りと頚の緊張があり疲れやすい。

問診

医者では鬱病と診断され、こう欝剤/精神安定剤/血圧の薬とうを出され服用している。

食欲はあり、睡眠/便通/足の冷え/吐き気などはとくに異状を感じたことはない。

望診

やや太り気味であり、そのわりに手足が細い。皮膚の色尺部の色は分かりませんでした。

聞診

話し方にはりがなく語尾がにごる感じを受けました。匂いとうは

分かりませんでした。

切診

切経

皮膚はざらつきがありつやや潤いがない。背中から腰にかけて緊張があり、特に右側の膈兪付近にしこりを触れる。手足の冷たい感じはなく、後頭部からこう頚部も特に熱感はない。ナソ部は左側の斜角筋ぶにナマゴムヨウ所見を認め、左右天柱から第2頚椎側にかけて硬く纐纈を触れる。

腹診

腹部は割りとふっくらした感じを受けるが、皮膚につやなくざらつきがあり押しても弾力性がないので虚腹と見た。

経絡腹診では右実月から腹哀にかけて肺の診所ざらつきかんげして虚。臍を中心とした中かんより陰交にいたる脾の診所力なく虚。

陰交より恥骨上際にかけて腎虚。

脉診

脉状診

沈やや遅にして虚。

比較脉診

左手しゃくちゅう沈めて腎虚。右手すんこう沈めて肺虚。右手かんじょう沈めて脾虚、浮かせて胃ややあり。右手みゃくちゅう浮かせて三焦虚。左手すんこう浮かせて小腸あり。他は平位と診ました。

病症の経絡的弁別

精神的な不安感ぼんやりした話し方後頭部から頭頂部にかけての頭痛は腎水経の変動。

皮膚のざらつき肩凝りなどは肺金経の変動。

やや太り気味疲れやすい食欲があり過ぎるは脾土経の変動としました。

証決定

異状の事柄を総合判断し腎虚脾虚の証を立てました。

予後の判定

病歴が非情に古く、長年薬を服用していること。皮膚の状態などで血に変動を起こしていることなどから推察すると、私の未熟な技術 ではかなり難しい症例になると思いますが、主訴の頭痛を軽減することを第1の目的に考え、治療を進めていくことにしました。

適応側の判定

左側のナソ所見が強く臍もやや右側に傾いているようでしたので、右としました。

治療および経過

脈状が沈やや遅脉であるので、やや深めに刺入し入念に補うことを心がけました。

まず、銀8分2番鍼を右復溜穴にたいし経に従って静に刺入し3ミリ程度刺入したところで留め呼吸がやや深めになったところを適度として抜鍼すると同時にて針穴を閉じる補法を行なった。見脉すると腎の脈が明瞭にふれるようになりました。ついで右尺宅、左陰陵泉にたいし同様の補法を行い、見脉すると脈状は遅脉が平に治まり沈脈も中位にまとまってきましたが、脈の硬さは残りました。

尚陽経をみますと三焦はまだはっきりせず胃と小腸にけんとおもわれるま虚生の邪を触れましたので、左右外関に補法、右豊隆、左姿勢より堅におおずる補中の瀉法を行い再度見脉すると、邪が取れ脈が柔らかくなりましたので、表治法に移りました。

表治法

ステンレス1寸2番鍼にて腹部の中間/上かん/巨闕の纐纈部にたいし、深瀉浅補で刺鍼。左ナソのナマゴムヨウ所見に対し静に刺入し充分補ってから抜き鍼する深補浅瀉にて刺鍼。腹外にして左天柱より第2頚椎側の筋張りに対し5ミリ程度刺鍼し置き鍼。背部は皮膚のざらつきが特にひどいので、左側の手の平でけいさつしながら補的散鍼。右膈兪に温灸を行なった。

留置鍼を取り、見脉すると脈の硬さが取れ、脈の崩れがないので、初回の治療を終了とした。週に2回程度の継続治療をしてもらうこととし帰した。

5月30日2回目

問診頭が常にモヤモヤした感じである。朝起きがけにずきずきした痛みが出やすい。

治療は前回に同じ。

6月三日3回目

問診かなり楽になってきた。

治療は前回に同じ。

6月六日4回目

問診 風邪を引いたようで喉の痛みがある。食欲は旺盛である。

腹診すると胃部に膨満感があり、押すと不快感があるようで、脈診でも脾の見所に「つくつく」という邪を触れましたので、腎虚脾実証で行い、右復溜/尺宅に補法。左陰陵泉より補中の瀉法で行なうとかんじょうぶの硬さがやや取れてきました。後はほぼ同じ治療を行ないました。

6月十日5回目

問診 頭のもやもやするかんじはまだあるが、鍼をするようになってから朝のずきずきする痛みはなくなってきた。治療は腎虚脾実証で行なった。

6月17日6回目

問診頭のモヤモヤする感じや痛みは段々感じる時間が短くなってきた。脈診するとかんじょうぶの脈も邪が取れたようで虚脉となり胃ぶを押しても不快感がないので、腎/脾相剋に戻し、左第2頚椎側の纐纈も非常に小さくなっているので、今までの置鍼を止め、その部とかく湯に温灸、本人の自覚症状はないが、足に冷たい感じが出てきたので、湧泉に温灸を加えることにする。

6月30日8回目

問診朝起きたときでも頭痛/頭重はなく家出内職を始める。

「鍼をしていて調子が良いのなら、少しずつ薬を飲まないように」減らすことを指導した。

7月18日11回目

問診暫く頭痛がなかったのに最近痛みがあちこち移動するように出てきた。

治療は腎脾相剋で行い、左右のしょうかい/れっけつに5,3の奇経灸(温灸で代用)を行なう。

3週間ほど薬を止めていたが、又これ以上ひどくなるので、又薬を飲み始めたとのことであった。その後2回の治療を経過し

8月14日

15回目

問診かなり楽になったので暫く様子を見たいとのことであった。治療は腎脾相剋で行なう。

考察

本人が楽になったというので、これ以上継続させることは難しいと断念する結果となったが、追試という意味においては、私自身もう少し継続して治療をしてみたかった症例である。反省する点は本証を腎虚としたのは良いと思うが、副証であるかんじょうぶの脾の見所は硬く触れるため、実ではないかと見誤ったのではないかと不安である。

初め腎脾治療をしているのだから補い過ぎて実することがあるのか、気を漏らして脈が硬くなり、実と見誤ったのか、自分では判断がつかないということです。

次に少し経絡治療に慣れて

きたせいもあり、脈診/腹診に頼り過ぎて問診が大雑把で情報が不足したため、証をたてる段階で、かなり苦慮したことを踏まえ、もっと綿密な問診を術者のほうで、問いただし証決定に結び付けていきたいと思う。

3番目は一挙に止めるとその反動が来るといけないから徐々に薬を離す様に私としては指導したつもりであったが、患者は素直にこちらの指示を信じすぎたようで、きっぱり止めたため、急激に具合が悪くなることもあったのでよくよく言葉には細心の注意を払わないといけないと思った。

ある程度軽減すると患者は治ったと錯覚するため、治療を止めてしまうが、これで鬱病が治ったわけでもなく、症状も出たり引っ込んだり交互に繰り返すと思われるので、その説得が非常に難しくそれが今後の課題だと思う。

脉に捕らわれすぎたり又必要のない問診を行い、 複雑な病症に惑わせられたり1穴補っただけで楽になったといわれたり守取穴しただけで響きがあったり、経絡治療の優秀性と難しさをいろいろと勉強させていただいた3年間でした。講習部で学んだことを日々の臨床に役立てられるよう努力していきたいと思いますので、今後ともご指導宜しくお願いします。

平成11年3月 本部定例会において新潟支部員

追記

この症例発表は本部講習部最後の卒業月である本部定例会において、行なったものです。

3年間東京へ通い続けその思いがいろいろとある中で、行なった症例発表でした。指導部の先生方のいる中で、自分が今行なってきた臨床を精一杯表現しようとしている発表であったと思われます。

内容については、今読み返しても安定している症例であったと事故評価しています。

開業3年目で東洋はりに入会してから5年目の臨床であることを考えれば、まずまずといったところでしょうか?自慢話しではなく私のようなものでも5年くらいやっていれば、これくらいの技術は習得できるということを皆さんに知っていただきたいと思います。皆さんなら、もっと速く到達出来る通過点ですので、鍼灸師の皆さんは、目指す治療手法が違っても、勉強5年。開業3年くらいになればこれくらいの臨床は充分行えるということを知っておいてください。

当然ながら、患者さんの症状を軽減させ、病気を治すということが最大の目標になりますが、我々はそればかりに捕らわれることなく、患者さんの生活環境をサポートできるような治療科でなければならないと思います。

時には、患者さんにとっても家族の人にとっても都合の悪いことを言ったりアドバイスすることも

必要ですし、必要であると思ったら通わせることも必要です。時には病院へ行ってもらうことも必要です。そのときに自分が出来ることを精一杯やるということがベストを尽くすということであり、結果が良いか悪かったかは臨床かとしてはあまり気にかけることではないと思いますので、皆さんも今自分がなにをすべきかなにが出来るのかを考えてください。

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