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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表楽にすることによって健康管理としての鍼治療を続けさせられた症例

2010年7月22日

楽にすることによって、健康管理としての鍼治療を続けさせられた症例

初めに。

我々鍼灸院に来院される患者の多くは、何らかの苦痛を持って来院されるものである。しかし、数回の来院により主訴の改善もしくは、愁訴の軽減により「治った」ということで来院されなくなったり、暫く中断するケースがほとんどである。治療科としてある程度経験をつむと、その割合も少なくなり、「健康管理としての鍼治療」(常連客)が多く診られるようである。先輩の皆さんの話を聴くと、「健康管理の鍼」の患者が半分くらいはいないと鍼灸院ははやってこないとか、反面数十回来院し半年余も越えて継続させても「楽になった」と患者に認識されず、それ以上の継続はかえって治療院のマイナスイメージになるとの考えも聞く事がある。

これについては、ここの患者の病歴や病体、治療科のスタンスというものもあるので、ここでは記述しないが、「東洋医学は未病を治す」予防医学としての鍼治療という観点に立てば、「悪いから来た」ではなく「悪くなると困るから来た」と患者から来院してもらえる鍼灸院、鍼灸かとしても目指していかなければならない目標だと思う。

症例1

患者女性45歳主婦

初診平成11年11月12日

主訴

腰痛/左坐骨神経痛

現病歴

20年ほど前に椎間板ヘルニアと診断され、以来腰痛や足の痛みがあったが、そのつど整形を受信して治っていた。今回も9月ごろにいためて整形外科で電気治療をしているが治らず、左の大腿部内側に痛みがある。特に、起き上がりの伸ばすときに痛みがある。パートでたち仕事であり、長くたっていると腰も重くなる。

望診

中肉中背で栄養状態は良。

聞診

話しかたはやや暗くゆっくり話をする。

問診

食欲はあるが、やや便秘気味で、二日、三日出ないことが多い。足が冷えやすく暖かくしているが、徐々に他のところは暖まるのに足は一向に温かさを感じない。

その他、睡眠/血圧/排尿の回数は異状なし

切経

皮膚は滑らかでつやがあるが、冷たく自覚症状どおり足は氷のようである。腰椎の後湾はややあるようだが、第何番目かのヘルニアかは分からない。Slr、ボンネットテストとも左の臀部が突っ張るが陰性。

腹診

全体的に冷たい虚腹で特に小腹が虚している。

腎/肺/脾の見所が虚。

脉診

脉状診

沈遅にして虚

比較脉診

左手しゃくちゅう沈めて腎最も虚、浮かせて膀胱虚。右手すんこう沈めて肺虚、

かんじょう沈めて脾虚。左手かんじょう浮かせて胆ややあり。

他は平位と診た。

証決定

病症の経絡的弁別

立っていると疲れる、伸ばしたときの腰の痛み、足の冷え感は腎水経の変動。

大腿部の内側の痛み、便秘、食欲ありなどは脾土経の変動。

ゆっくりとした鼻仕方は肺金経の変動とした。

。以上の事柄により腎/脾相剋調整の証とした。

予後の判定

ムノブの所見、腰臀部筋の緊張度、腰椎の状態などの観察では、慢性的な病歴とはいえ、

坐骨神経痛の初期症状であるので、数回ないし10回程度の鍼治療で改善は可能と思い、そのことを患者に告げて治療を行なった。

治療および経過

銀8分2番鍼にて右復溜/尺宅/左陰陵泉に補法を行い、見脉すると脉が中位にまとまり平になっとてきたので、陽経を

再度確認し膀胱に虚、胆にけんと思われる虚生の邪を触れたので、左きんもんに補法。左光明よりけんにおうずる補注の瀉法を行なった。再度見脉すると胆の邪もとれ脉が全体的に力が出たので、表治法に移った。

表治法は特に左のムノブナマゴムヨウ所見にたいし、静に刺入し、過度の刺激にならないよう鍼を動かして抜き鍼。腹部、ナソ部、背腰部に2から3箇所刺鍼後腰椎部2箇所、湧泉に3層ずつ温灸を行なった。見脉すると脉の崩れもなく患者も体が温まってきたとのことであったので、初回の治療を終え、後2回は三日おきに治療をすることにした。

2回目11月16日

問診づくづくするような痛みは少し和らぐ。

3回目11月19日

問診楽になり曲げ伸ばしの苦痛がなくなった。

4回目11月22日

問診動き始めに腿の後ろ側に痛みがある。

坐骨神経の経路上にようやく痛みが出現したのは、症状の変化であり、改善の兆しと思い患者には説明をする。いずれも腎/脾相剋で行なう。

5回目11月26日

問診お尻が突っ張り、足の痛む場所が段々下がってきたようだ。

治療は脾/肝相剋で左の仙腸関節部に温灸、左しんみゃく/ごけいに奇経灸を加える。

後、1週間に1度の感覚で治療をしていくと6回目7回目あたりでは、着衣着脱動作や挨拶などでかがむと尻から腿の裏側に痛みが出るとのことであったが、

8回目12月17日ごろより、お尻の痛みは残っているが、起き上がったときに腰や足の痛みはなくなった。

9回目腰の痛みは半減した。

10回目12月27日には、ほとんど腰痛もなくなったとのことであり、腰痛/坐骨神経痛の治療は終了とした。

患者には「貴方は体質的に足の冷えがあり、それが引き金となっていろいろな症状が出るのだから、冷えを改善させなければならないので、つきに2回程度はりを続けるように」と指導した。

それから半年以上たった現在も、鍼治療を継続していて、足の冷えもかなりらくになったとのことである。

治療はほとんど腎/脾相剋で行なっている。

症例2

患者45歳男会社員

初診平成11年8月五日

主訴

肩凝り

現病歴

肩凝りと腰痛があり眠りが浅くなると肩から背中にかけて凝る感じがあり、特に左側が悪い。

望診

小柄痩せ型で胃下垂型。

聞診

声はわりと高く話しかたがかけふさんのような特徴でうなる感じ。

問診

わりと冷えやすくふくらはぎがつったり、お腹が張ったりする。

排尿排便はすっきりせず、睡眠は浅く疲れやすい。

頭痛/目眩/食欲/血圧などは異状なし。

切経

ナソ部は斜角筋ぶ中/後部から項頚部/左肩甲骨内縁部にナマゴムヨウ所見。皮膚がざらつきしまりがない。

腹診

平べったくやや硬めで、大腹小腹とも弾力なし。

脉診

脉状診

沈遅にして虚

比較脉診

左手しゃくちゅう沈めて腎虚、浮かせて膀胱虚。右手すんこう/かんじょう沈めて肺/脾虚左手かんじょう浮かせて胆ややあり。

病症の経絡的弁別

肩凝り/眠りが浅いは肺金経の変動。

疲れやすい/胃下垂型腹張るは脾土経の変動。

ふくらはぎがつるは肝木経の変動。

うなるような話しかた、腰痛/下肢の冷えは腎水経の変動とした。

証決定

腎/肺/脾いずれを主証にするか迷ったが、脉状および比較脈診において相生関係より腎/脾相剋の証を立てた。

予後の判定

体質的には腎虚体質ではないと思われるので、本治法を繰り帰し行なうことで、本来の体質に戻すことを心がけた。

治療および経過

適応側は左側に凝り感が強く臍の傾き、中脉の充実度とうから右とした。

銀8分2番鍼にて右復溜/尺宅/左陰陵泉/左金門に補法。光明よりけんにおうずる補中の瀉法。表治法は、ナソ部の所見にたいし、深瀉浅補。後は腹部背腰部に数箇所刺鍼後、神堂/命門、左右湧泉に温灸。膏肓に円皮鍼を貼付し治療終了。

腎/脾相剋で3回目まで治療を続け4回目8月16日背中の痛みは大分楽になったが、2時間ほど前に頭をぶつけ左の頚筋を伸ばしたということで、

見脉すると腎の虚は触れず、脾が最も虚し、肝が実していたため、脾虚肝実証で行なう。

後、2回ほど脾虚肝実証で行なう。

7回目9月二十日より腎/脾相剋に戻し治療をするが、しだいに肩凝り以外に目の疲れや風邪をひいたのか喉がいがらっぽく鼻もむずむずするなどの症状が現れた。

10回目10月19日同じような症状を訴えるので、注意ぶかく脉診すると肺/脾/肝/が虚し大腸に虚生の邪、胆に虚生の邪を触れ腎の虚は目立たないので、肺肝相剋にて治療。

後、十日に1度の感覚で治療を続け、

肩凝りや眼の疲れは残っているが、眠りも

深くなり倦怠感も徐々に改善されたとのことで、

平成12年2月八日にていったん治療を終わりとした。

現在は12年5月22日に再来院し継続中であるが、患者さんは「やはりはりを止めるとあまり調子が良くないようだ」と言って来院されたものである。

考察

この二つの症例は内容は多少異なる点もあるが、治療の進め方においては類似しており、初めの5回くらいまでは三日に1度くらいの間隔で、後1週間に1、十日に1と私の指示通り患者が来院し10回前後には主訴の改善が見られたことで、それが結果として患者の信頼を勝ち取ることが出来、継続させられている理由だと思う。特に2例目は考察するに途中からは誤治であったにもかかわらず、再び来院されるにいたったのは、

術者ばかりではなく「正しい認識は体験によってのみ体得される」とて鍼の良さを患者自身が理屈ではなく、体で覚えた結果だと思う。ややもすると健康管理としての鍼治療はまんねりかして同じ証で同じ取穴、同じ手方で治療を進めがちになるが、臨床は生き物であり、病気は常に変化するものと肝に銘じて取り組んでいきたい。

2000年新潟支部定例会において 今泉聡

追記

この症例は開業4年目の治験を本にしたもので、発表は翌年の夏ごろ行なったものである。

開業3年目くらいは私自身も無我夢中で行い、来院される方も鍼灸院が出来たから行ってみようという人も多く患者さんの来院が安定しないものである。しかし、そのころを過ぎると初診患者さんの来院が少なくなる一方、継続患者さんがしだいに増え、平均来院回数も上がってくるころであったと思う。

この症例の患者さんはその後も暫く来院され、他の症状でもかなり通院されました。

ある程度主訴の改善が見られるまでには回数がかかるので、我々は1回でも早い段階で楽にして上げることを目標にしていかなければならないし、患者さんにも良い傾向になるまであるていど我慢してもらうよう説得することが大切になると思います。それから先は、患者さんと術者の信頼関係ということになりますので、皆さんも健康管理とはならなくても、悪くなったら又きてもらえる鍼灸院を目指していって欲しいです。

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