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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表虚体患者の治験例

2010年9月16日

治験発表虚体患者の治験例

我々鍼灸院で取り扱う患者の多くは、急性劇症を訴えて来院する患者を除けば、慢性的で緩慢な症状の経過をたどり、体質的にも虚体なものが多いように思われます。

日頃患者に対する場合、病症の経絡的弁別、腹症、脉症(比較脈診)、切経などを適宜行なってはいますが、いささか証を立てることにきゅうきゅうとしすぎ、「診断は陰陽、治療は五行」という原則から外れているように思います。

証には体の証と病の証とがあり、体の証には「陰/陽/虚/実」の大別が必要です。その診断の後、証決定の第1段階(施術の選択)では、「新旧」「劇易」「緩急」「虚実」の判定により、手技手法を決定し、その後治療目標となる証を立てなければなりません。その診断を怠ると、かりに病の証主証)が合っていたとしても、治療効果、治療間隔、治療内容、日数等が狂い予後も不良となります。

今回は陽虚体質、陰虚体質と思われる患者の治験を発表いたします。

教科書の理屈どおりには病症、脈状、切診とう体質判断が可能な条件が揃うわけではないことを、予めお断りしておきますが、参考までに

陽虚証とは、邪気浅く表陽部にあるが、これを追い出すべき体力が伴わないので、病症は比較的緩慢で微熱自汗して疲れやすく眠けをもようし脈は全脉微弱である。これは陰より補ってから陽分に現れた虚生の邪を補中の瀉法によって処理しなければならない。時に陰陽ともに補うこともある。

陰虚証とは、病が古く陰分を侵しており、体力も虚損しているので、徹底的に補法を行なわなければならない証である。虚熱/るい痩ない切れ慢性蹴り下血とうをあらわし、皮膚こそうして脈は微細か細数を現す。

尚、陽が(実すれば外熱し陽が虚すれば外寒す。陰が実すれば内寒し陰が虚すれば内熱するという病理を踏まえ診断のポイントとします。

症例1陽虚証と思われる患者

患者50歳女性縫製の仕事兼業農家

初診平成13年2月

主訴 腰痛

現病歴

2年ほど前から腰痛がひどくなり、医者にかかっているが、坐薬を使用しているが治らない。立ち続けていたり体を回転させるときに右の腰から尻にかけて痛みが出る。

問診

三日ほど前から左の肩関節が痛む。便秘がち。その他とくに苦痛を感じていることはない。コレステロールや中性脂肪が高い。

切経

肥満で肌はかさかさしている。皮膚は湿り気のある冷たさ。(外寒)と見ました。

第1から第5胸椎の後湾変形と椎側のキョロ。腰椎下部の前突変形。SLRは陰性。右仙腸関節部に生ゴムよう所見。足先が冷たい。

腹診

膨満しているが力がない。腎と脾の診所かんげして虚。

脈診

脈状診 沈やや硬めであるが虚と見る。

比較脈診 腎/肺/脾の虚。膀胱の虚。胃/小腸/胆はややあり。

証決定

まず体の証としては、肥満し体が冷え皮膚こそう足先冷たい便秘等は、陽体でありながら虚を現していると判断する。

病では旧病。病状では易症状。病の進行状態は緩やか。体力は未だあるが邪を追い出せない状態と見て陽分に邪を現せさせることが治療のボイントとみました。

病症の経絡的弁別

肥満/コレステロール/中性脂肪が高い(栄養状態)/便秘は脾土経。

肩間接の痛み/皮膚こそうは肺金経。

立ちつかれ/骨の変形/足の冷えは腎水経の変動と見ました。

以上の事柄より腎虚脾虚相剋

の証としました。

治療は定則どおり左復溜尺宅/右陰陵泉に補法。京骨に補法。豊隆支正よりこにおうずる補中の瀉法。表治法は腹部/ナソ部/背腰部に行い湧泉/胸椎側キョロに温灸。申脈/後谿3,2の奇経灸を行ないました。

2月という季節柄か、脈が硬く沈み渋りもあり、腎虚本証に結び付けましたが、以来脾/腎相剋、脾虚肝実、腎虚脾実など証がいろいろ変わりました。

3回目から保険診療となり、季刊制限等があるため、ほぼ1日おきに治療を計画して行くつもりでしたが、雪が降るなどすると週1度となったり、4回治療をする週があったりなど患者に振り回され、やく28回の治療後、田植えを理由に中断となりました。

経過は腎/脾が3から4回続くと脾本証になるのですが、それがなかなか持続せず又腎虚に戻るということからも、体質改善には至っていないと思います。

また、一見がっちりとしていて体力もあるので虚の症状を現していたにもかかわらず治療回数やドウゼの多さが好結果を得なかったものと反省いたします。

症例2陰虚証と思われる患者

70歳女性主婦

初診平成13年6月

主訴 足の冷え

現病歴

去年の6月に心臓を検査したら僧坊便の異状と心房細動があり、高血圧があることが分かった。時々息苦しさがあり、尿に鮮血が混じっている。

その後食道に出来たポリープを切除し、1ヶ月ほど前から足の冷えが気にかかり

時々場所が変わるようである。

既往歴

10年ほど前にばせどし病

問診

肩凝り/頭重/心悸亢進//高血圧剤/血栓予防剤などを服用。

切経

痩せ型/胃下垂があり、皮膚のつやがある。自覚症状に比して皮膚は冷たくない。(虚熱があるものと思われる)右肩上部に100円玉ていどのゴムねんどよう所見。

腹診

虚腹で脾の診所にきょりの動を触れ腎の診所ざらつき虚。

脈診

脉状診 浮細にして虚不規則な不整脈

比較脈診 心/腎/脾/肺の虚。膀胱の虚。胃はややあり。

証決定

体の証としては痩せ型/胃下垂/足の冷え/細にして虚脉は陰体虚を現していると判断した。

病では比較的新病ではあるが、病状では易症状。病の進行状態は緩やか。体力がなくやせ衰えているため徹底的な補法が必要で根気強く鍼数を少なめに治療をすることを心がけました。

病症の経絡的弁別

僧坊便の異状/心房細動/不整脈/息苦しいなどは心火経の変動。

るいそう/肩凝りは肺金経の変動。

足の冷え/血尿/頭重などは腎水経の変動。

以上の事柄より、腎虚脾虚の相剋調整の証を立てました。

治療は右復溜/尺宅、左陰陵泉に補法。見脉し膀胱もやはり虚しているようであったため、京骨に補法。豊隆より補中の瀉法。表治法は右ナソのゴムねんどよう所見にたいし、深瀉浅補。最後に湧泉。公孫/内関に3,2の奇経灸を温灸にて行なう。

陰体でもあり虚体でもあるため、治療間隔をやや開けて行なうことにしました。

2回目6月11日「あまり変わりはない。右腰もやや痛む」

3回目6月16日「いくぶんひやひやした感じはなくなった」

4回目6月21日「昨日あたりからまた足の冷えがある」

5回目6月26日「足の冷えは時々きになるくらいになってきた」

6回目6月30日「足の冷えは改善されつつある。」

7回目7月14日「足の冷えはなくなり、不整脈もやや減ってきた。動悸がすることはなくなっている」

全て治療は腎/脾相克で行なう。4回目からは奇経灸を取りやめる。以後、2週間に1回の間隔で治療を行ない症状が治まっているので、

完治として現在は健康管理の

ため、月1回来院している。

脈状は脈に厚みが出て虚脉も平に近づきずつある。

この患者は1例目の人とは体系や体質も正反対と思われるが、

治療に関しては5回目まで五日に1回、8回目まで1週間に1回。11回目まで2週間に1回とこちらの指示通り来院してくれたことが、好結果に繋がったものと思われる。

とかく、治療を褪せるあまり、続けて通わせたり、ドウゼが多くなりがちであるが、この症例では、ただ一生懸命やれば結果が出るわけではないということを学びました。

考察

治験発表をするたびに、比較的印象に残った症例を用いますが、これは発表ということで後から自分なりに検討するからこのようになるのであって、患者の初診時に果たしてどれくらい4診法を活用し証決定や予後の判定に結び付けられているか非情に疑問です。「治療は五行というのは身につくもので、ただ比較して肺虚だとか、腎虚だとか言って治療をしているのだと思います。虚体患者であるのに痛みを強く訴えられ粗雑な手法をしたり、取らなければならない邪実を見落として補法優先とて補法のみ意識が行っていること等患者の素因体質病体を無視したちりょうをおこなっているのがほとんどではないでしょうか?」いずれにせよ「診断即治療」の出来る経絡治療を生かすも殺すも、我々鍼灸科の正しい「診断力」が求められるのは当然であります。「陰陽五行説」の理論に基づいてこそ真の経絡治療だと思います。

(2001年新潟支部定例会において 今泉聡)

追記

この治験発表は開業6年目に行なったものであります。経絡治療の世界に入ってから10年近くたっていますので、今までやってきたことに対して、そろそろ自信も出てくるころですが、その一方で「これでよいのだろうか?」と疑問に思い始めるころであったのでしょうね。

教科書を引用しながら基本に返って見直して治療を進めていくことの大切さを力説しています。更に、病の証ばかりではなく体の証を診断出きるようになりたいという今泉の気持ちがにじみ出ていますが、この治験発表から10年もたったいまであっても、なかなか臨床においては結び付けられていないのが現実であります。

これを読んでくれた皆さんも頭では鍼灸術は病気を治すのではなくて、体を治すのだということはよくよく分かっているとは思いますが、やはり症状に捕われたり病名に振り回されてしまうのではないでしょうか?

鍼灸師一生の過大ですね。

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