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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表帯状疱疹の1治験

2010年10月18日

帯状疱疹の1治験

帯状疱疹の概要

帯状疱疹には、大きく分けて眼の部/三叉神経第1枝第2枝に出る眼部帯状疱疹といわゆる帯状疱疹とに分けられます。

代表的な症状としてい神経痛/帯状の発赤/丘疹/嚢疱/局部の糜爛/

潰瘍/果皮など。

症状がよく似ている病気として、単純性疱疹。起こりやすい合併症として、ウイルス性脳炎/内臓悪性腫瘍。

どのような病気か?

水頭が治った後、水頭帯状疱疹ウイルスは、三叉神経節や脊髄後根神経節に潜伏感染を生じます。

潜伏していたウイルスが再び活性化されて皮膚に到達して病変が生じるのが帯状疱疹です。

どうして病気が起こるのか?

ウイルスの再活性化はどうして起きるかは明らかではありません。

しかし、なんらかの理由で免疫力の低下が生じてそれまで眠っていたウイルスが増殖を始めるものと思われます。

どんな現れ方か?

まず、頭痛/肋間神経痛/腰痛などの神経痛が右側か左側か片側性に生じます。

2、3日遅れてその場所に帯状に発赤が生じ、丘疹水疱/嚢疱/が出現します。1日から2週間で果皮を形成し治癒しますが、しばしば、瘢痕を残してしまいます。

病気を治すには?

軽症例では、消炎鎮痛剤の服用と内服と消炎外用薬の外服で充分です。

重症例で入院して抗ウイルス剤を点滴します。

中等症例では、外来にて抗ウイルス剤の内服を行ないます。痛みが強いばあいは神経ブロックを併用します。治った後でも神経痛が残ることがあります。

病気の予防?

抗ウイルス剤の治療はなるべく早期に開始したほうが良いので、症状の程度にかかわらず、まず皮膚科専門医を受診するのが大切です。

帯状疱疹患者に接触しても帯状疱疹は生じません。

以上が現代医学から見た帯状疱疹に対する概説です。次に症例を紹介します。

症例患者78歳女性

初診 2004年10月29日

主訴

左胸から脇腹背中にかけての帯状疱疹。

現病歴

8月二十日に左胸から背中にかけて帯状疱疹が出て薬などによりかなり改善したが、まだ背中から前に向かって「ズズーン」という痛みがある。前に引っ張られるような疼痛である。

問診

今まで自分では健康であり、医者係りをしたことはない。痛みのため最近眠りが浅く、しばしば目覚める。患側を下にして横にはなれない。

けつあつ117/74。便通は1回。

望診

小柄でややぽっちゃりとした感じ。

肌にはつやがあり暖かい。

切経

左の乳下部第6、第7肋間ににそって肩甲間部まで瘢痕が残っている。

両ナソ部になまごむよう所見がある。胸椎が円背ぎみで背部緊張あり。

腹診

全体的に押しても力がなく、虚腹で特に腎の診所虚。

脉上申

沈やや数にして虚

比較脈診

腎/肺/脾虚、胃胆ややあり。

病症の経絡的弁別

まず、疱疹のるちゅうじょうで大別すれば、胃経/胆経/ようい脉。皮膚病と捕らえて肺経/大腸経。痛みでは胸から脇の痛みで心経前側に及ぶ痛みを心下痛として脾経ないし肝経。夜痛みが出て眠りが浅いは腎経と見ました。

予後の判定

発病から2ヶ月あまり立ってからの来院で未だ瘢痕を残し痛みもあること、薬を内服していることなどを考え、予後は不良であると判断しました。

適応側の判定

女性でもあり病側が左側ということで、右としました。

治療方針

患者の来院理由が友達などの話で帯状疱疹を鍼で治した経験があると聞いてきての来院で2ヶ月あまり皮膚科を受診しているが、思ったより治りが悪く、痛みが取れないことが特に気にかかる様子であったことなどから、鍼に対する期待が強く「治療には時間がかかりますが、痛みは取れてきますし、瘢痕もしだいに消えますから」と話をして継続治療としました。

内服薬はなんどか種類が変わり、副作用とも思われる疱疹の増悪が見られましたので、

取りやめてなんこうを塗るだけとしてもらいました。

まず、右復溜穴に銀1寸2番鍼で経に従って静に刺入し、再気の後素早く罰鍼する補法を行ないました。やや数の脈が平となり同じ方法で右尺宅、左陰陵泉に補法を行ないました。

見脉し胃経/胆経に明瞭な邪を触れましたので、

ステン1寸2番鍼に換えてけんにおうずる補中の瀉法で処理しました。

見脉後中位に脈が落着きましたので、表治法としてなまごむよう所見に対するナソ処置と左患側の瘢痕周囲に散鍼。胸椎側こうけつ圧痛所見に棒灸にて温灸、最後に左外関/臨泣に棒灸にて奇経灸をを行ないました。

1週間に2回ほどの治療を支持し、その日は帰しました。

2回目11月二日

「まだ水疱があり当たると痛みがある。」脈診では腎の脈は深く沈めても感じられ膀胱に邪実があるようにも思えました。それと肝の脈がく強く硬く降れたため、

今日は肺/肝の和法で処理しました。

以来、カルテを見て気付いたのですが、交互に腎/脾相剋と肺虚本証で8回まで行なっています。

3回目11月五日

「痛みは胸のほうへ走ることが多い」腎/脾相剋。

4回目11月十日

「まだ痛みは左胸へかけて走る」肺/肝の和法。

5回目11月15日

「まだ発信が起こりやすい」腎/脾相剋。

6回目11月19日

「少し痛みが楽になりつつある。肺虚肝実証。

7回目11月24日

「体が引っ張られるような痛みがある」腎/脾相剋。

8回目11月30日

「痛みは少し和らぎつつあるが、まだ後は残っている」肺虚肝実証。

それからは1週間に1度の来院で

9回目12月七日

「胸のほうへ痛みが走るのは少なくなったが、薬の影響か皮膚がただれてしまった」肺虚肝実証で4回続けて治療(12回目12月28日まで)し、

14回目2005年1月17日の

問診では「立ち上がったときなどに痛みが出る」と訴えていた。

15回目1月25日

「ようやく悪い側を下にしても痛くなくなった。」

このときは腎/脾相剋で治療し以来、来院はなくなりました。

発疹の痕跡も痛みもほぼ完治したものと思われます。

考察

発病からほぼ治癒となるまで約5ヶ月。鍼治療を開始してから3ヶ月、15回の治療日数がかかりました。

「鍼がよく効いて手ごたえ充分。受けた患者さん大満足。」とはいえないかもしれませんが、鍼をし始めてから痛みが徐々に軽減していったことと、瘢痕の消失が速くなっていったことは、疑うべくこともないところです。

皮膚科に受診しながらの鍼治療でしたので、薬をつけていて途中皮膚がかぶれ薬を換えるなどの経過は見られましたが、

飲み薬を止めていて鍼で治したいという患者の気持ちがありましたので、結果的に治癒に導けたと思います。治療の回数と間隔については、最初の1ヶ月は週2回の治療で残りはほぼ1回の治療で計15回と私の思いと患者の来院が珍しく一致して理想的であったと思います。反省点は特に現代医学的な知識もなく、振り回されたということもなかったのですが、帯状疱疹を経絡学的に捕らえる事が出来なかったので、最後まで証を迷いました。

頭では痛みを取ることへの集注をしますが、触ったり問診時など特に初めの数回は発疹の状態に気を捕られてしまったことが、原因かもしれません。目先の症状から類推してもっと奥にある病変の状況を経絡学に基づいて判断していかなければならないと思いました。

自分でこの治験を書くために、カルテを読み返し驚きましたが、1回3回5回7回15回が腎/脾相剋、後は肺虚本証で行なっています。

症状が増悪したとか好転したとかはあまり関係なく証を換えていますので、

そのときの脈診都腹診の状態で換えていると思います。

どうしても少し脈診が身についたつもりになっていると

簡便な脈と腹を見て

判断してしまう癖がついてしまっているようで、戒めなければならない点であります。

「びっくりするほど著工を上げた」とか、「この穴を使ったら症状が改善した」などの有効な決め手があって治せたまたは治った治験ではけっしてありませんが、回を重ねて粘り強く治療をしていったら、判定勝ちとなったような症例だったと思います。

これが本当の経絡治療の有効性ではないかと思いました。

2005年新潟支部定例会において 副支部長 今泉聡

追記

この発表は治療終了まもなくに行なったものですが、それから数ヵ月後に再来院があり、発表では完治と書いていましたが、残念ながらこれは今泉の思い込みで痛みは完全には取れていなかったようです。患者さんの多くはこのような人のように症状がある程度軽減するとぷっつり来院をしなくなったりしますので、何時までも症状が残ったり、又再発したりするものです。

再来院から暫く来院が続き、軽減するとは暫く遠のいて、又再来院するなど、2007年まで治療を続けました。「悪いときには頼って鍼に

来てくれる」ので良い患者さんでもありますが、完治にまでは辿りつけなく、治療科としては充分な説得が出来なかったのかとも半生しております。

帯状疱疹の鍼灸治療は、後遺症としての神経痛を残さないようにしてあげることだと思いますので、皆さんもこのような患者さんが来院されたときには、体のメンテナンスの大切さを説き再発しにくい体にしてあげてください。

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