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新潟市の泉心道鍼院よりメッセージ

治験発表虚体患者の治験例

2010年9月16日

治験発表虚体患者の治験例

我々鍼灸院で取り扱う患者の多くは、急性劇症を訴えて来院する患者を除けば、慢性的で緩慢な症状の経過をたどり、体質的にも虚体なものが多いように思われます。

日頃患者に対する場合、病症の経絡的弁別、腹症、脉症(比較脈診)、切経などを適宜行なってはいますが、いささか証を立てることにきゅうきゅうとしすぎ、「診断は陰陽、治療は五行」という原則から外れているように思います。

証には体の証と病の証とがあり、体の証には「陰/陽/虚/実」の大別が必要です。その診断の後、証決定の第1段階(施術の選択)では、「新旧」「劇易」「緩急」「虚実」の判定により、手技手法を決定し、その後治療目標となる証を立てなければなりません。その診断を怠ると、かりに病の証主証)が合っていたとしても、治療効果、治療間隔、治療内容、日数等が狂い予後も不良となります。

今回は陽虚体質、陰虚体質と思われる患者の治験を発表いたします。

教科書の理屈どおりには病症、脈状、切診とう体質判断が可能な条件が揃うわけではないことを、予めお断りしておきますが、参考までに

陽虚証とは、邪気浅く表陽部にあるが、これを追い出すべき体力が伴わないので、病症は比較的緩慢で微熱自汗して疲れやすく眠けをもようし脈は全脉微弱である。これは陰より補ってから陽分に現れた虚生の邪を補中の瀉法によって処理しなければならない。時に陰陽ともに補うこともある。

陰虚証とは、病が古く陰分を侵しており、体力も虚損しているので、徹底的に補法を行なわなければならない証である。虚熱/るい痩ない切れ慢性蹴り下血とうをあらわし、皮膚こそうして脈は微細か細数を現す。

尚、陽が(実すれば外熱し陽が虚すれば外寒す。陰が実すれば内寒し陰が虚すれば内熱するという病理を踏まえ診断のポイントとします。

症例1陽虚証と思われる患者

患者50歳女性縫製の仕事兼業農家

初診平成13年2月

主訴 腰痛

現病歴

2年ほど前から腰痛がひどくなり、医者にかかっているが、坐薬を使用しているが治らない。立ち続けていたり体を回転させるときに右の腰から尻にかけて痛みが出る。

問診

三日ほど前から左の肩関節が痛む。便秘がち。その他とくに苦痛を感じていることはない。コレステロールや中性脂肪が高い。

切経

肥満で肌はかさかさしている。皮膚は湿り気のある冷たさ。(外寒)と見ました。

第1から第5胸椎の後湾変形と椎側のキョロ。腰椎下部の前突変形。SLRは陰性。右仙腸関節部に生ゴムよう所見。足先が冷たい。

腹診

膨満しているが力がない。腎と脾の診所かんげして虚。

脈診

脈状診 沈やや硬めであるが虚と見る。

比較脈診 腎/肺/脾の虚。膀胱の虚。胃/小腸/胆はややあり。

証決定

まず体の証としては、肥満し体が冷え皮膚こそう足先冷たい便秘等は、陽体でありながら虚を現していると判断する。

病では旧病。病状では易症状。病の進行状態は緩やか。体力は未だあるが邪を追い出せない状態と見て陽分に邪を現せさせることが治療のボイントとみました。

病症の経絡的弁別

肥満/コレステロール/中性脂肪が高い(栄養状態)/便秘は脾土経。

肩間接の痛み/皮膚こそうは肺金経。

立ちつかれ/骨の変形/足の冷えは腎水経の変動と見ました。

以上の事柄より腎虚脾虚相剋

の証としました。

治療は定則どおり左復溜尺宅/右陰陵泉に補法。京骨に補法。豊隆支正よりこにおうずる補中の瀉法。表治法は腹部/ナソ部/背腰部に行い湧泉/胸椎側キョロに温灸。申脈/後谿3,2の奇経灸を行ないました。

2月という季節柄か、脈が硬く沈み渋りもあり、腎虚本証に結び付けましたが、以来脾/腎相剋、脾虚肝実、腎虚脾実など証がいろいろ変わりました。

3回目から保険診療となり、季刊制限等があるため、ほぼ1日おきに治療を計画して行くつもりでしたが、雪が降るなどすると週1度となったり、4回治療をする週があったりなど患者に振り回され、やく28回の治療後、田植えを理由に中断となりました。

経過は腎/脾が3から4回続くと脾本証になるのですが、それがなかなか持続せず又腎虚に戻るということからも、体質改善には至っていないと思います。

また、一見がっちりとしていて体力もあるので虚の症状を現していたにもかかわらず治療回数やドウゼの多さが好結果を得なかったものと反省いたします。

症例2陰虚証と思われる患者

70歳女性主婦

初診平成13年6月

主訴 足の冷え

現病歴

去年の6月に心臓を検査したら僧坊便の異状と心房細動があり、高血圧があることが分かった。時々息苦しさがあり、尿に鮮血が混じっている。

その後食道に出来たポリープを切除し、1ヶ月ほど前から足の冷えが気にかかり

時々場所が変わるようである。

既往歴

10年ほど前にばせどし病

問診

肩凝り/頭重/心悸亢進//高血圧剤/血栓予防剤などを服用。

切経

痩せ型/胃下垂があり、皮膚のつやがある。自覚症状に比して皮膚は冷たくない。(虚熱があるものと思われる)右肩上部に100円玉ていどのゴムねんどよう所見。

腹診

虚腹で脾の診所にきょりの動を触れ腎の診所ざらつき虚。

脈診

脉状診 浮細にして虚不規則な不整脈

比較脈診 心/腎/脾/肺の虚。膀胱の虚。胃はややあり。

証決定

体の証としては痩せ型/胃下垂/足の冷え/細にして虚脉は陰体虚を現していると判断した。

病では比較的新病ではあるが、病状では易症状。病の進行状態は緩やか。体力がなくやせ衰えているため徹底的な補法が必要で根気強く鍼数を少なめに治療をすることを心がけました。

病症の経絡的弁別

僧坊便の異状/心房細動/不整脈/息苦しいなどは心火経の変動。

るいそう/肩凝りは肺金経の変動。

足の冷え/血尿/頭重などは腎水経の変動。

以上の事柄より、腎虚脾虚の相剋調整の証を立てました。

治療は右復溜/尺宅、左陰陵泉に補法。見脉し膀胱もやはり虚しているようであったため、京骨に補法。豊隆より補中の瀉法。表治法は右ナソのゴムねんどよう所見にたいし、深瀉浅補。最後に湧泉。公孫/内関に3,2の奇経灸を温灸にて行なう。

陰体でもあり虚体でもあるため、治療間隔をやや開けて行なうことにしました。

2回目6月11日「あまり変わりはない。右腰もやや痛む」

3回目6月16日「いくぶんひやひやした感じはなくなった」

4回目6月21日「昨日あたりからまた足の冷えがある」

5回目6月26日「足の冷えは時々きになるくらいになってきた」

6回目6月30日「足の冷えは改善されつつある。」

7回目7月14日「足の冷えはなくなり、不整脈もやや減ってきた。動悸がすることはなくなっている」

全て治療は腎/脾相克で行なう。4回目からは奇経灸を取りやめる。以後、2週間に1回の間隔で治療を行ない症状が治まっているので、

完治として現在は健康管理の

ため、月1回来院している。

脈状は脈に厚みが出て虚脉も平に近づきずつある。

この患者は1例目の人とは体系や体質も正反対と思われるが、

治療に関しては5回目まで五日に1回、8回目まで1週間に1回。11回目まで2週間に1回とこちらの指示通り来院してくれたことが、好結果に繋がったものと思われる。

とかく、治療を褪せるあまり、続けて通わせたり、ドウゼが多くなりがちであるが、この症例では、ただ一生懸命やれば結果が出るわけではないということを学びました。

考察

治験発表をするたびに、比較的印象に残った症例を用いますが、これは発表ということで後から自分なりに検討するからこのようになるのであって、患者の初診時に果たしてどれくらい4診法を活用し証決定や予後の判定に結び付けられているか非情に疑問です。「治療は五行というのは身につくもので、ただ比較して肺虚だとか、腎虚だとか言って治療をしているのだと思います。虚体患者であるのに痛みを強く訴えられ粗雑な手法をしたり、取らなければならない邪実を見落として補法優先とて補法のみ意識が行っていること等患者の素因体質病体を無視したちりょうをおこなっているのがほとんどではないでしょうか?」いずれにせよ「診断即治療」の出来る経絡治療を生かすも殺すも、我々鍼灸科の正しい「診断力」が求められるのは当然であります。「陰陽五行説」の理論に基づいてこそ真の経絡治療だと思います。

(2001年新潟支部定例会において 今泉聡)

追記

この治験発表は開業6年目に行なったものであります。経絡治療の世界に入ってから10年近くたっていますので、今までやってきたことに対して、そろそろ自信も出てくるころですが、その一方で「これでよいのだろうか?」と疑問に思い始めるころであったのでしょうね。

教科書を引用しながら基本に返って見直して治療を進めていくことの大切さを力説しています。更に、病の証ばかりではなく体の証を診断出きるようになりたいという今泉の気持ちがにじみ出ていますが、この治験発表から10年もたったいまであっても、なかなか臨床においては結び付けられていないのが現実であります。

これを読んでくれた皆さんも頭では鍼灸術は病気を治すのではなくて、体を治すのだということはよくよく分かっているとは思いますが、やはり症状に捕われたり病名に振り回されてしまうのではないでしょうか?

鍼灸師一生の過大ですね。

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治験発表楽にすることによって健康管理としての鍼治療を続けさせられた症例

2010年7月22日

楽にすることによって、健康管理としての鍼治療を続けさせられた症例

初めに。

我々鍼灸院に来院される患者の多くは、何らかの苦痛を持って来院されるものである。しかし、数回の来院により主訴の改善もしくは、愁訴の軽減により「治った」ということで来院されなくなったり、暫く中断するケースがほとんどである。治療科としてある程度経験をつむと、その割合も少なくなり、「健康管理としての鍼治療」(常連客)が多く診られるようである。先輩の皆さんの話を聴くと、「健康管理の鍼」の患者が半分くらいはいないと鍼灸院ははやってこないとか、反面数十回来院し半年余も越えて継続させても「楽になった」と患者に認識されず、それ以上の継続はかえって治療院のマイナスイメージになるとの考えも聞く事がある。

これについては、ここの患者の病歴や病体、治療科のスタンスというものもあるので、ここでは記述しないが、「東洋医学は未病を治す」予防医学としての鍼治療という観点に立てば、「悪いから来た」ではなく「悪くなると困るから来た」と患者から来院してもらえる鍼灸院、鍼灸かとしても目指していかなければならない目標だと思う。

症例1

患者女性45歳主婦

初診平成11年11月12日

主訴

腰痛/左坐骨神経痛

現病歴

20年ほど前に椎間板ヘルニアと診断され、以来腰痛や足の痛みがあったが、そのつど整形を受信して治っていた。今回も9月ごろにいためて整形外科で電気治療をしているが治らず、左の大腿部内側に痛みがある。特に、起き上がりの伸ばすときに痛みがある。パートでたち仕事であり、長くたっていると腰も重くなる。

望診

中肉中背で栄養状態は良。

聞診

話しかたはやや暗くゆっくり話をする。

問診

食欲はあるが、やや便秘気味で、二日、三日出ないことが多い。足が冷えやすく暖かくしているが、徐々に他のところは暖まるのに足は一向に温かさを感じない。

その他、睡眠/血圧/排尿の回数は異状なし

切経

皮膚は滑らかでつやがあるが、冷たく自覚症状どおり足は氷のようである。腰椎の後湾はややあるようだが、第何番目かのヘルニアかは分からない。Slr、ボンネットテストとも左の臀部が突っ張るが陰性。

腹診

全体的に冷たい虚腹で特に小腹が虚している。

腎/肺/脾の見所が虚。

脉診

脉状診

沈遅にして虚

比較脉診

左手しゃくちゅう沈めて腎最も虚、浮かせて膀胱虚。右手すんこう沈めて肺虚、

かんじょう沈めて脾虚。左手かんじょう浮かせて胆ややあり。

他は平位と診た。

証決定

病症の経絡的弁別

立っていると疲れる、伸ばしたときの腰の痛み、足の冷え感は腎水経の変動。

大腿部の内側の痛み、便秘、食欲ありなどは脾土経の変動。

ゆっくりとした鼻仕方は肺金経の変動とした。

。以上の事柄により腎/脾相剋調整の証とした。

予後の判定

ムノブの所見、腰臀部筋の緊張度、腰椎の状態などの観察では、慢性的な病歴とはいえ、

坐骨神経痛の初期症状であるので、数回ないし10回程度の鍼治療で改善は可能と思い、そのことを患者に告げて治療を行なった。

治療および経過

銀8分2番鍼にて右復溜/尺宅/左陰陵泉に補法を行い、見脉すると脉が中位にまとまり平になっとてきたので、陽経を

再度確認し膀胱に虚、胆にけんと思われる虚生の邪を触れたので、左きんもんに補法。左光明よりけんにおうずる補注の瀉法を行なった。再度見脉すると胆の邪もとれ脉が全体的に力が出たので、表治法に移った。

表治法は特に左のムノブナマゴムヨウ所見にたいし、静に刺入し、過度の刺激にならないよう鍼を動かして抜き鍼。腹部、ナソ部、背腰部に2から3箇所刺鍼後腰椎部2箇所、湧泉に3層ずつ温灸を行なった。見脉すると脉の崩れもなく患者も体が温まってきたとのことであったので、初回の治療を終え、後2回は三日おきに治療をすることにした。

2回目11月16日

問診づくづくするような痛みは少し和らぐ。

3回目11月19日

問診楽になり曲げ伸ばしの苦痛がなくなった。

4回目11月22日

問診動き始めに腿の後ろ側に痛みがある。

坐骨神経の経路上にようやく痛みが出現したのは、症状の変化であり、改善の兆しと思い患者には説明をする。いずれも腎/脾相剋で行なう。

5回目11月26日

問診お尻が突っ張り、足の痛む場所が段々下がってきたようだ。

治療は脾/肝相剋で左の仙腸関節部に温灸、左しんみゃく/ごけいに奇経灸を加える。

後、1週間に1度の感覚で治療をしていくと6回目7回目あたりでは、着衣着脱動作や挨拶などでかがむと尻から腿の裏側に痛みが出るとのことであったが、

8回目12月17日ごろより、お尻の痛みは残っているが、起き上がったときに腰や足の痛みはなくなった。

9回目腰の痛みは半減した。

10回目12月27日には、ほとんど腰痛もなくなったとのことであり、腰痛/坐骨神経痛の治療は終了とした。

患者には「貴方は体質的に足の冷えがあり、それが引き金となっていろいろな症状が出るのだから、冷えを改善させなければならないので、つきに2回程度はりを続けるように」と指導した。

それから半年以上たった現在も、鍼治療を継続していて、足の冷えもかなりらくになったとのことである。

治療はほとんど腎/脾相剋で行なっている。

症例2

患者45歳男会社員

初診平成11年8月五日

主訴

肩凝り

現病歴

肩凝りと腰痛があり眠りが浅くなると肩から背中にかけて凝る感じがあり、特に左側が悪い。

望診

小柄痩せ型で胃下垂型。

聞診

声はわりと高く話しかたがかけふさんのような特徴でうなる感じ。

問診

わりと冷えやすくふくらはぎがつったり、お腹が張ったりする。

排尿排便はすっきりせず、睡眠は浅く疲れやすい。

頭痛/目眩/食欲/血圧などは異状なし。

切経

ナソ部は斜角筋ぶ中/後部から項頚部/左肩甲骨内縁部にナマゴムヨウ所見。皮膚がざらつきしまりがない。

腹診

平べったくやや硬めで、大腹小腹とも弾力なし。

脉診

脉状診

沈遅にして虚

比較脉診

左手しゃくちゅう沈めて腎虚、浮かせて膀胱虚。右手すんこう/かんじょう沈めて肺/脾虚左手かんじょう浮かせて胆ややあり。

病症の経絡的弁別

肩凝り/眠りが浅いは肺金経の変動。

疲れやすい/胃下垂型腹張るは脾土経の変動。

ふくらはぎがつるは肝木経の変動。

うなるような話しかた、腰痛/下肢の冷えは腎水経の変動とした。

証決定

腎/肺/脾いずれを主証にするか迷ったが、脉状および比較脈診において相生関係より腎/脾相剋の証を立てた。

予後の判定

体質的には腎虚体質ではないと思われるので、本治法を繰り帰し行なうことで、本来の体質に戻すことを心がけた。

治療および経過

適応側は左側に凝り感が強く臍の傾き、中脉の充実度とうから右とした。

銀8分2番鍼にて右復溜/尺宅/左陰陵泉/左金門に補法。光明よりけんにおうずる補中の瀉法。表治法は、ナソ部の所見にたいし、深瀉浅補。後は腹部背腰部に数箇所刺鍼後、神堂/命門、左右湧泉に温灸。膏肓に円皮鍼を貼付し治療終了。

腎/脾相剋で3回目まで治療を続け4回目8月16日背中の痛みは大分楽になったが、2時間ほど前に頭をぶつけ左の頚筋を伸ばしたということで、

見脉すると腎の虚は触れず、脾が最も虚し、肝が実していたため、脾虚肝実証で行なう。

後、2回ほど脾虚肝実証で行なう。

7回目9月二十日より腎/脾相剋に戻し治療をするが、しだいに肩凝り以外に目の疲れや風邪をひいたのか喉がいがらっぽく鼻もむずむずするなどの症状が現れた。

10回目10月19日同じような症状を訴えるので、注意ぶかく脉診すると肺/脾/肝/が虚し大腸に虚生の邪、胆に虚生の邪を触れ腎の虚は目立たないので、肺肝相剋にて治療。

後、十日に1度の感覚で治療を続け、

肩凝りや眼の疲れは残っているが、眠りも

深くなり倦怠感も徐々に改善されたとのことで、

平成12年2月八日にていったん治療を終わりとした。

現在は12年5月22日に再来院し継続中であるが、患者さんは「やはりはりを止めるとあまり調子が良くないようだ」と言って来院されたものである。

考察

この二つの症例は内容は多少異なる点もあるが、治療の進め方においては類似しており、初めの5回くらいまでは三日に1度くらいの間隔で、後1週間に1、十日に1と私の指示通り患者が来院し10回前後には主訴の改善が見られたことで、それが結果として患者の信頼を勝ち取ることが出来、継続させられている理由だと思う。特に2例目は考察するに途中からは誤治であったにもかかわらず、再び来院されるにいたったのは、

術者ばかりではなく「正しい認識は体験によってのみ体得される」とて鍼の良さを患者自身が理屈ではなく、体で覚えた結果だと思う。ややもすると健康管理としての鍼治療はまんねりかして同じ証で同じ取穴、同じ手方で治療を進めがちになるが、臨床は生き物であり、病気は常に変化するものと肝に銘じて取り組んでいきたい。

2000年新潟支部定例会において 今泉聡

追記

この症例は開業4年目の治験を本にしたもので、発表は翌年の夏ごろ行なったものである。

開業3年目くらいは私自身も無我夢中で行い、来院される方も鍼灸院が出来たから行ってみようという人も多く患者さんの来院が安定しないものである。しかし、そのころを過ぎると初診患者さんの来院が少なくなる一方、継続患者さんがしだいに増え、平均来院回数も上がってくるころであったと思う。

この症例の患者さんはその後も暫く来院され、他の症状でもかなり通院されました。

ある程度主訴の改善が見られるまでには回数がかかるので、我々は1回でも早い段階で楽にして上げることを目標にしていかなければならないし、患者さんにも良い傾向になるまであるていど我慢してもらうよう説得することが大切になると思います。それから先は、患者さんと術者の信頼関係ということになりますので、皆さんも健康管理とはならなくても、悪くなったら又きてもらえる鍼灸院を目指していって欲しいです。

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治験発表鬱病

2010年7月15日

鬱病

高等部今泉 聡

患者55歳女性主婦。

初診 平成10年5月27日

主訴

頭痛と倦怠感。

現病歴

20年ほど前に家庭内のいざこざにより精神的に不安定となり、胸から背中にかけて苦しくなり、時々激痛が走るようになった。更に、頭痛が出るようになり入院した結果、胸から背中の痛みは取れたが、頭痛は残りほぼ毎日のように後頭部から頭頂部にかけてずきずきするような痛みがある。血圧はやや高めで、肩凝りと頚の緊張があり疲れやすい。

問診

医者では鬱病と診断され、こう欝剤/精神安定剤/血圧の薬とうを出され服用している。

食欲はあり、睡眠/便通/足の冷え/吐き気などはとくに異状を感じたことはない。

望診

やや太り気味であり、そのわりに手足が細い。皮膚の色尺部の色は分かりませんでした。

聞診

話し方にはりがなく語尾がにごる感じを受けました。匂いとうは

分かりませんでした。

切診

切経

皮膚はざらつきがありつやや潤いがない。背中から腰にかけて緊張があり、特に右側の膈兪付近にしこりを触れる。手足の冷たい感じはなく、後頭部からこう頚部も特に熱感はない。ナソ部は左側の斜角筋ぶにナマゴムヨウ所見を認め、左右天柱から第2頚椎側にかけて硬く纐纈を触れる。

腹診

腹部は割りとふっくらした感じを受けるが、皮膚につやなくざらつきがあり押しても弾力性がないので虚腹と見た。

経絡腹診では右実月から腹哀にかけて肺の診所ざらつきかんげして虚。臍を中心とした中かんより陰交にいたる脾の診所力なく虚。

陰交より恥骨上際にかけて腎虚。

脉診

脉状診

沈やや遅にして虚。

比較脉診

左手しゃくちゅう沈めて腎虚。右手すんこう沈めて肺虚。右手かんじょう沈めて脾虚、浮かせて胃ややあり。右手みゃくちゅう浮かせて三焦虚。左手すんこう浮かせて小腸あり。他は平位と診ました。

病症の経絡的弁別

精神的な不安感ぼんやりした話し方後頭部から頭頂部にかけての頭痛は腎水経の変動。

皮膚のざらつき肩凝りなどは肺金経の変動。

やや太り気味疲れやすい食欲があり過ぎるは脾土経の変動としました。

証決定

異状の事柄を総合判断し腎虚脾虚の証を立てました。

予後の判定

病歴が非情に古く、長年薬を服用していること。皮膚の状態などで血に変動を起こしていることなどから推察すると、私の未熟な技術 ではかなり難しい症例になると思いますが、主訴の頭痛を軽減することを第1の目的に考え、治療を進めていくことにしました。

適応側の判定

左側のナソ所見が強く臍もやや右側に傾いているようでしたので、右としました。

治療および経過

脈状が沈やや遅脉であるので、やや深めに刺入し入念に補うことを心がけました。

まず、銀8分2番鍼を右復溜穴にたいし経に従って静に刺入し3ミリ程度刺入したところで留め呼吸がやや深めになったところを適度として抜鍼すると同時にて針穴を閉じる補法を行なった。見脉すると腎の脈が明瞭にふれるようになりました。ついで右尺宅、左陰陵泉にたいし同様の補法を行い、見脉すると脈状は遅脉が平に治まり沈脈も中位にまとまってきましたが、脈の硬さは残りました。

尚陽経をみますと三焦はまだはっきりせず胃と小腸にけんとおもわれるま虚生の邪を触れましたので、左右外関に補法、右豊隆、左姿勢より堅におおずる補中の瀉法を行い再度見脉すると、邪が取れ脈が柔らかくなりましたので、表治法に移りました。

表治法

ステンレス1寸2番鍼にて腹部の中間/上かん/巨闕の纐纈部にたいし、深瀉浅補で刺鍼。左ナソのナマゴムヨウ所見に対し静に刺入し充分補ってから抜き鍼する深補浅瀉にて刺鍼。腹外にして左天柱より第2頚椎側の筋張りに対し5ミリ程度刺鍼し置き鍼。背部は皮膚のざらつきが特にひどいので、左側の手の平でけいさつしながら補的散鍼。右膈兪に温灸を行なった。

留置鍼を取り、見脉すると脈の硬さが取れ、脈の崩れがないので、初回の治療を終了とした。週に2回程度の継続治療をしてもらうこととし帰した。

5月30日2回目

問診頭が常にモヤモヤした感じである。朝起きがけにずきずきした痛みが出やすい。

治療は前回に同じ。

6月三日3回目

問診かなり楽になってきた。

治療は前回に同じ。

6月六日4回目

問診 風邪を引いたようで喉の痛みがある。食欲は旺盛である。

腹診すると胃部に膨満感があり、押すと不快感があるようで、脈診でも脾の見所に「つくつく」という邪を触れましたので、腎虚脾実証で行い、右復溜/尺宅に補法。左陰陵泉より補中の瀉法で行なうとかんじょうぶの硬さがやや取れてきました。後はほぼ同じ治療を行ないました。

6月十日5回目

問診 頭のもやもやするかんじはまだあるが、鍼をするようになってから朝のずきずきする痛みはなくなってきた。治療は腎虚脾実証で行なった。

6月17日6回目

問診頭のモヤモヤする感じや痛みは段々感じる時間が短くなってきた。脈診するとかんじょうぶの脈も邪が取れたようで虚脉となり胃ぶを押しても不快感がないので、腎/脾相剋に戻し、左第2頚椎側の纐纈も非常に小さくなっているので、今までの置鍼を止め、その部とかく湯に温灸、本人の自覚症状はないが、足に冷たい感じが出てきたので、湧泉に温灸を加えることにする。

6月30日8回目

問診朝起きたときでも頭痛/頭重はなく家出内職を始める。

「鍼をしていて調子が良いのなら、少しずつ薬を飲まないように」減らすことを指導した。

7月18日11回目

問診暫く頭痛がなかったのに最近痛みがあちこち移動するように出てきた。

治療は腎脾相剋で行い、左右のしょうかい/れっけつに5,3の奇経灸(温灸で代用)を行なう。

3週間ほど薬を止めていたが、又これ以上ひどくなるので、又薬を飲み始めたとのことであった。その後2回の治療を経過し

8月14日

15回目

問診かなり楽になったので暫く様子を見たいとのことであった。治療は腎脾相剋で行なう。

考察

本人が楽になったというので、これ以上継続させることは難しいと断念する結果となったが、追試という意味においては、私自身もう少し継続して治療をしてみたかった症例である。反省する点は本証を腎虚としたのは良いと思うが、副証であるかんじょうぶの脾の見所は硬く触れるため、実ではないかと見誤ったのではないかと不安である。

初め腎脾治療をしているのだから補い過ぎて実することがあるのか、気を漏らして脈が硬くなり、実と見誤ったのか、自分では判断がつかないということです。

次に少し経絡治療に慣れて

きたせいもあり、脈診/腹診に頼り過ぎて問診が大雑把で情報が不足したため、証をたてる段階で、かなり苦慮したことを踏まえ、もっと綿密な問診を術者のほうで、問いただし証決定に結び付けていきたいと思う。

3番目は一挙に止めるとその反動が来るといけないから徐々に薬を離す様に私としては指導したつもりであったが、患者は素直にこちらの指示を信じすぎたようで、きっぱり止めたため、急激に具合が悪くなることもあったのでよくよく言葉には細心の注意を払わないといけないと思った。

ある程度軽減すると患者は治ったと錯覚するため、治療を止めてしまうが、これで鬱病が治ったわけでもなく、症状も出たり引っ込んだり交互に繰り返すと思われるので、その説得が非常に難しくそれが今後の課題だと思う。

脉に捕らわれすぎたり又必要のない問診を行い、 複雑な病症に惑わせられたり1穴補っただけで楽になったといわれたり守取穴しただけで響きがあったり、経絡治療の優秀性と難しさをいろいろと勉強させていただいた3年間でした。講習部で学んだことを日々の臨床に役立てられるよう努力していきたいと思いますので、今後ともご指導宜しくお願いします。

平成11年3月 本部定例会において新潟支部員

追記

この症例発表は本部講習部最後の卒業月である本部定例会において、行なったものです。

3年間東京へ通い続けその思いがいろいろとある中で、行なった症例発表でした。指導部の先生方のいる中で、自分が今行なってきた臨床を精一杯表現しようとしている発表であったと思われます。

内容については、今読み返しても安定している症例であったと事故評価しています。

開業3年目で東洋はりに入会してから5年目の臨床であることを考えれば、まずまずといったところでしょうか?自慢話しではなく私のようなものでも5年くらいやっていれば、これくらいの技術は習得できるということを皆さんに知っていただきたいと思います。皆さんなら、もっと速く到達出来る通過点ですので、鍼灸師の皆さんは、目指す治療手法が違っても、勉強5年。開業3年くらいになればこれくらいの臨床は充分行えるということを知っておいてください。

当然ながら、患者さんの症状を軽減させ、病気を治すということが最大の目標になりますが、我々はそればかりに捕らわれることなく、患者さんの生活環境をサポートできるような治療科でなければならないと思います。

時には、患者さんにとっても家族の人にとっても都合の悪いことを言ったりアドバイスすることも

必要ですし、必要であると思ったら通わせることも必要です。時には病院へ行ってもらうことも必要です。そのときに自分が出来ることを精一杯やるということがベストを尽くすということであり、結果が良いか悪かったかは臨床かとしてはあまり気にかけることではないと思いますので、皆さんも今自分がなにをすべきかなにが出来るのかを考えてください。

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治験発表生理不順を伴う不定愁訴

2010年7月12日

生理不順を伴う不定愁訴

普通部2年今泉 聡

患者22歳既婚者

初診平成9年10月15日

主訴

頚から肩にかけて凝り、頭が痛む。

望診

身長155センチ体重41キロ手足が細く栄養状態はやや不良。

顔面部しゃくぶの色は分かりませんでした。

聞診

勉強不足で5声5音5香は分かりませんでした。

問診

現病歴

自立神経失調症気味であり、頚から肩にかけて重だるく頭痛や頭十もある。足が冷え食欲不振吐き気があり、軟便でおしっこも近い。

汗は出にくく水分はあまり取らない。医者を受信しているが検査場異状が認められず、胃薬と精神安定剤などが出されていて、福用中。そのためか常にぼんやり眠たくだるい。

既往歴

3年前に卵巣脳腫により左かわのらんそうを3ぶんの2ほど取ったが、排卵は起こっている。しかし、元来生理痛ひどく不順であり、この1年間はあったりなかったりの繰り返しである。

付き添いの母親によると新婚3ヶ月であり、いまはじっかにもどっているから

早くもとの生活にもどしてやりたいとの訴えであった。

切診

切経

皮膚は全体につやがなく、背部と足はこそうしている。腰椎に後湾変形があり、左の背中から腰にかけて硬く緊張を触れる。

ナソ部は両方とも反応があるが、特に右側の鎖骨上かを中心とした欠盆穴から斜角筋ぶ項頚部におよんでゴムねんどよう所見を触れました。

肩上部肩甲間部には思ったほどの著名な所見はありませんが、督脈上の神堂/霊台付近にキョロ所見を認めました。

腹診

腹部全体はかんげして冷たく虚腹で心下部を圧すると不快感があり、正中線より鼠けいぶに向かって左側に手術痕がありました。

経絡腹診では、中脘かん穴より陰交にいたる脾の診所力なく虚。陰交穴から恥骨上際にかけて腎の診所冷たくかんげして虚。

ムノ部左側にキョロ所見を触れました。

脉診

脉上診

浮やや遅にして虚

比較脉診

右手かんじょう沈めて脾最も虚。浮かせて胃虚。左手すんこう沈めて心虚。浮かせて小腸あり。左手しゃくちゅう沈めて腎虚。右手しゃくちゅう浮かせて三焦虚。右手すんこう沈めて肺虚。多は平位とみました。

病症の経絡的弁別

生理不順/吐き気/食欲不振/軟便全身倦怠感/痩せ気味は脾土経の変動。

手足の冷え/頻尿汗をかきにくいなどは腎水経の変動。

皮膚こそう/頚肩の凝り/眠気などは肺金経の変動。頭痛/頭重などは肝経の変動としました。

証決定

異状の事柄を総合的に判断し、脾虚腎虚の相剋調整の証を立てました。

予後の判定

主訴は頚肩の凝りで、そこからくる頭痛であるから、緊張を取り除ければ訳はないと寝台上に上がってもらいましたが、問診をしていくうちに「これは単純な肩凝りではないぞ」と思い、気を引き締めました。

患者は薬を服用しているため、それを減らし止めさせられるかが、ポイントと思われましたので、

鍼治療は自然治癒力を高める治療であることを説明し、私も患者も長期的な治療になることを踏まえて根気強く続けることにしました。

適応側の判定

女性でもあり、臍の形状から右としました。

治療および経過

本治法

まず銀8分2番鍼にて右太白に静に刺入し再気した後左右あつをかけて抜っ鍼すると同時に間はつを入れずに鍼穴を閉じる補法を行なった。

見脉すると遅脉がやや速くなってきたが、まだ中位にまとまった脈ではなかった。

動揺の方法で右大陵/左太谿に補法。陽経も虚していたので、三里/外関に補法。

更に、小腸にけんとおもわれる脈状を触れたので、ステン1寸2番にてけんにおうずる補中の瀉法をおこなった。

見脉すると脉全体は細くしまったような感じがあるが、陽経はまだ不十分に思われました。

表治法

腹部にたいして中かん/天枢に接触補鍼。ナソ部は左右とも処置したが、特に右側のゴムねんどよう所見に対しては2ミリ程度静に刺入し、おもむろに刺動法を加えて抵抗緩むを度としてゆっくり抜鍼する手技で行なう。

背部では、上部には補的刺鍼し、督脈や左腰部には瀉的に行なった。

見脉すると虚脉は力を得て浮脉も中位にまとまっていたので、初回の治療を終了として、暫く1日おきに治療をすることにした。

2回目10月17日

問診鍼をしてその日のうちに遅れていた生理が始まった。

3回目10月18日

問診今回の生理は苦痛がない。

4回目10月二十日

問診昨日立ちくらみがして具合が悪かった。

いずれも脾腎相剋で継続し2回目より督脈状の圧痛と左いゆに対して知熱灸を行なう。

10月22日

問診下痢気味であり、食欲がなく腹もすかない。吐き気は治まってきた。

脉診すると脾は虚しているが腎はさほどでわなく、肝に指の腹を着く邪を触れたので証を脾虚肝実証にて行なう。

見脉すると脉がぼやけ 肺が虚していたため、太淵/太白に補法を行なう。

初回時に比べ、脈状が変化していて浮脈であるがやや数でやや実に感じられるようになった。

この回より右公孫に金粒/左内関に銀粒を貼付し、奇経治療を試み吐き気はなくなってきた。

しかし、週に3から2回の治療を継続したが、そのつど症状が変わり、腰痛/頭痛/目眩/吐き気とうが入れ替わり立ち代りで現れたり消失したりしたため、それに振り回されて肺虚肝実、肺/肝の和法、脾虚肝実、脾/肝相剋、腎/脾相剋など

目まぐるしく変わった。

しかし、3種類の薬を日に3回飲んでいたのがほとんど飲まずにすむようになり、徳脈状の圧痛や左腰部の筋緊張は取れてきた。

11月八日10回まで治療を続けたが、

新婚生活に戻り、休職していた仕事にも復帰したため、遠方からの通院となり、

やむをえ1週間に1回の治療に切り替えた。

その日は具合が良いが生理時でもないのに出血があり、医者からは排卵時における出血ではないかと言われる。

三陰交にお灸をした後円皮鍼を貼付様子を見る。

12回目11月22日

問診又具合が悪くなり、先週来るはずの生理はまだない。吐き気と腰痛、食欲不振である。

治療は脾/肝相剋で妊娠の聴講かもしれないとも思い、

三陰交への施術と円皮鍼は取りやめる。

13回目11月29日

問診 吐き気は止まらない。寒気があり熱っぽい医者では妊娠の形跡はないと言われ、私のほうが少し期待していたので、がっかりした。

仙腸関節付近のナマゴムヨウ所見に対し、入念に治療を行なう。

14回目12月九日

問診遅れていた生理がようやくきたが、頭痛と腹痛がひどい。

治療は脾/肝相剋で行なう。

以来、1週間に1回のわりで来院しているが、いくぶん治まってきた眠気と吐き気が又表れてきている。

考察

この症例は目まぐるしく症状が変わり、好転したりぞうあくしているように思えたが、実際のところは吐き気や寒気/眠気などがなにによって引き起こされているのかが、東洋医学的にも現代医学的にも私自身把握出来ていないがため、右おう左おうしていただけと思われる。その理由は患者の訴えに振り回されたというばかりでなく、この患者は反応が激しいというか、毎回来るたびに脈状が違い浮数虚が浮数実となったり、浮遅虚から沈数虚になるなどで経験の浅い私では正直なところ着いていけないという感じを抱いてしまいました。そう思うとますます疑心暗鬼で証を立てることが不安で、表治法にウウェイトがかかりがちになってきました。

しかし、幸いなことに敏感ではあるが、誤治反応が強く出るというわけでもなく、、むしろ治療後は脈がしっかりと中位にまとまり、次の来院では症状が消失していて、、又新たな症状を訴えるという繰返しでした。

そのことが余計に私自身を迷わす結果になっていましたが、ここ最近は脾虚を本証に治療を進めて今尚継続中です。

今後の治療の参考にしたいと思いますので、指導部の先生方と皆さんのご指導ご意見をいただきたいと思います。

1998年2月本部定例会において新潟支部陰

追記

この症例は開業2年目、本部2年目の治験例です。

前回まで3症例ブログに掲載いたしましたが、その症例のほうが適切に治療を進め、的確に診断を出来ているように思われました。

この症例においては病症の経絡的弁別でかなりの部分に間違った弁別をしているところがあります。又、発表形式においては、2年目ということもあるのでしょうが、一字一句の説明は出来るだけ簡略にしているように記載しているようです。

これは、勉強を

重ねていくことでより詳細に弁別しようとしているところも回間見えますが、まだ経絡治療の基礎基本技術習得中ということもあり、

試行錯誤の結果とも思われます。それと2年目で1年目の患者さんよりも重篤な患者さんを取り扱うようになっているということも考えられますので、

技術レベルがダウンしてしまった内容とはいえないということを、皆さんに言い訳しておきたいと思います。

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治験発表慢性気管支炎

2010年7月7日

慢性気管支炎

患者30歳 女性会社員

初診 平成9年4月26日

主訴

咳が出て止まらない。

望診

身長155センチ程度でとても痩せている。

聞診

話をしていても時々咳が出るが、音は乾いていて痰が絡んでいるような様子はない。特に呼気時(話しをしようとするとき)に咳が出るようである。5音5声は分かりませんでした。

問診

現病歴

5、6年前になると思うが、春や秋になりかけの頃よく咳が出るようになり始め、年数を重ねるごとにひどくなり、最近では一年中咳き込むようになった。くしゃみや鼻水、喉がむずむずするような感じがある。最初はアレルギーかとも思い医者を受信するが、よくならず気管支喘息ではないかと言われた。

そして、漢方薬を暫く続けたが、効果がないため鍼治療に来られたとのことであった。

その他咳は寝ていると治まっていて、日中に良く照るようである。

足の冷えがあるが、肩凝り/腹痛/食欲/便通/睡眠などの自覚症状はない。

切診

切経

体全体が細く虚体である。皮膚は滑らかで気の巡りが速そうである。ナソ部は両方とも緊張が強く特に右側の斜角筋前部にナマゴムヨウ所見あり。

側頚部のリンパ節もやや腫脹している。肩背部も緊張している。

腹診

肋骨弓角が狭く胃下垂タイプ。大腹小腹ともにひらべったい。

経絡腹診では、右実月から腹哀にかけて肺の診所かんげして虚。心下部を按ずると空虚な感じがある。

脉診

脉状診

細い脈だが浮やや数にして虚。

比較脉診

右手すんこう沈めて肺最も虚。ついで左手かんじょう沈めて肝虚。右手かんじょう沈めて脾虚。浮かせて胃虚。同じくしゃくちゅう浮かせて三焦きょ。他派平位と診ました。

病症の経絡的弁別

皮膚が滑らか、主訴の咳/くしゃみ/鼻水やや神経質等は肺金経の変動。

喉がむずむずする、胃下垂痩せ型は脾土経の変動。

足の冷えは腎水経の変動としました。

証決定

以上の事柄を総合的に判断し、肺肝相剋調整の証を立てました。

予後の判定

やや神経質そうで、鍼も恐る恐る

といった感じであるので、気を漏らさぬよう注意し、体質改善を目的に継続治療に持ち込めればよい結果は得られると思いました。

治療および経過

まず、8分1番鍼を持ち、取穴しようとすると患者から「鍼は痛くないのですか?」と急に恐ろしくなったようであったため、初回であることも考慮し、金ていしんで右太淵にたいし直鍼にて皮膚表面に軽く当て気をうかがっていると呼吸がやや深くなったのでていしんを離しついで右の太白、左のちゅう封に補法。見脉すると脈状はさほど変わらないが、やや数から遅に落着いて来たので陽経の処理に移り

左右外関/右三里に補法。見脉し陽経に邪のないことを確認し表治法に移る。

表治法は患者に分からないように銀8部1番鍼で腹部の反応に対し切皮鍼。

ナソ部はナマゴムヨウ所見に対しやや鍼をし、堅い部で押し付けたり緩めたりして緊張を取り除く。腹外にて背腰部には右は緊張があり瀉的散鍼。

左は補的散鍼。最後に心中に圧痛があったので知熱灸を3層。脉診の結果乱れのないことを確認し、初回の治療を終了した。

本来ならば間をおかずに治療をしたいところだが遠方より来られるため、週1度の治療で暫く続けることにしました。

2回目5月二日

問診咳はあまり変わらずに出る。患者さんから「鍼を刺したほうが効くのでしょう。普通の鍼で治療をしてください」と言われた。

8分1番鍼にて経にしたがって取穴し静かに刺入し、才気した後、左右圧をかけ素早く抜鍼すると同時に針穴を閉じる補法を経渠/商丘/中封(けいきんけつ)に行う。見脉するとやや脉に厚みを感じたが、陽経の邪は捕らえられなかった。その他はほぼ前回に同じだが、肺輸に圧痛が強くあったため円皮鍼を貼付した。

3回目5月十日

問診やや咳が治まってきた。ナソ部の所見がやや緩み頚部のリンパ節の腫脹はほぼ触れなくなってきた。背中は緊張し痒みがある。治療は肺肝相剋。

4回目5月1七日

問診昨日は凄く咳が出た。

肺肝相剋で継続。

5回目5月23日

問診発作のような咳はなくなってきたが、昼間仕事をしていると、咳が出てしかたがない。肺肝相剋だが、円皮鍼を肺輸より右の中不に換える。

6回目6月二日

問診最近発作のような咳がなかったのに、今日の昼食中気管支に食べ物が入り咳き込みそれがずっと止まらない。(数時間経過している)治療は肺肝相剋で咳は治まる。

7回目7月25日

問診梅雨に入ってからずっと調子が良く咳はあまり出なくなっていたが、梅雨開けとともに又咳が出始め特に昼間に出る。治療肺肝相剋。

治療後少し良くなっても安心しないで完全に治すつもりで鍼にかかるよう勧めたが以来来院はされていない。

考察

経絡治療において気管支喘息/気管支炎/アレルギー性疾患などは、最も適応性のある症例であったと思われますが、そのチャンスを生かすことは出来ませんでした。最後の来院時に「梅雨時季は咳があまり出なかった」とのことでやや改善傾向にあったのに、治療継続をさせることが出来ませんでした。反省すべき点は、整脉力と取穴手法においても、未熟なため、陽経にあるはずの邪を浮かしきれず

捕らえる事が出来なかったことです。これからはもっと身長に取穴手法に取り組み整脈力を付けたいと思います。

又、補助的な治療として円皮鍼の使い方、火内鍼、知熱灸、奇経治療等の工夫が必要であったと反省させられました。しかし、良かったことは他の患者さんからも言われますが、「はりって痛くないですね」という鍼にたいする恐怖心を少しはなくすることが出来たことです。

これからも体質改善を必要とする慢性病は、経絡治療の最も効果を発揮できる症例であると思っていますので、積極的に取り組んで行きたいと思います。

いろいろとアドバイス注意点など教えてください。

平成9年新潟支部定例会に置いて 新潟支部員 今泉聡

追申

この症例は開業2年目のもので、調度経絡治療のおもしろさと難しさを感じ始めていたころのものです。

今、こうして読み返してみますと、症状の変化があったときなどにたいしての治療方針の稚拙さを感じますが、このころはまだ呼吸器病は肺経絡の変動が必ずあるものであるというへんな拘りがあったように見えますね。

しかし、経絡治療においては補法優先、陰主用従という原則がありますが、

本人が考察しているようにこのころは陽経に邪を浮かせきれずそれを処理するまでの整脈力がなかったことが治癒に導けなかった要因ではないかと推察できますし、10数年たった今でもこのようなことはたくさんありますが、

患者さんへのアプローチはとても難しく特に遠方の患者さんは通院感覚が開いてしまいがちになるため、どうしてもこのような結果になってしまうと考えられます。治療科の技術もありますが、患者さん自信の

通い方も治るときの大きなポイントとなりますので、鍼灸師の方は参考にしてください。

開業2年目の新米鍼灸師にたいして自分が好評を加えてみました。

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